「私にしかできない仕事」が欲しい!

 スポーツの中でも特定の選手にスポットを当てるという「柔らかめのネタ」で成果を上げたとしても、誰の実績も邪魔しないだろうという推測も立ちました。何より、その時の私は「どんなテーマでもいいから、私にしかできない仕事を見つけたい」と渇望していたのだと思います。

 実際にサッカースタジアムに行ってみると、老若男女、いろんな人が集まるので、リアルなイギリス社会の縮図を目の当たりにすることも多く、勉強になりましたよ。

――とはいえ、まだ日本ではほとんど知られていなかったサッカー選手をどう取り上げるか、悩みますよね。あれほどのブームにつながったきっかけは何だったのですか?

 これは本当に時の巡り合わせだったのですが、ワールドカップ開催年だった2002年の4月、リーグ戦の試合中にベッカム選手が足を骨折するというアクシデントが起きたんです。

 ちょうど私もその試合を見に行き、その様子を撮影していたのですが、スター選手が担架で運ばれていく間、会場は騒然。翌朝の大衆紙の一面には、ベッカムの足型の写真が大きく掲載され、「彼がプレイできるように、皆で祈ろう!」といった意味の見出しが躍りました。

 数週間後のワールドカップに彼が出られるのかと、当時のブレア首相までコメントし、イギリス中の注目を集めるほどの彼のスター性にますます可能性を感じた私は、日本テレビの本社に電話して、すぐにリポートできるネタとしてプレゼンしたのです。

 この「すぐにリポートできる」というのがポイントで、相手が仕事をしやすい準備をしておくことが、機を逃さず、物事をスピーディーに進めてくれるんですよね。それまでコツコツと試合に通っては集めていた映像や、視聴者の興味を刺激しそうなエピソードといった素材は、もう十分にたまっていました。

 「それ、面白いね。すぐ出せる? じゃ、送って!」という反応を得られて、早速素材を送ってみると大好評。放送中の視聴率もよかったということで、「また次の素材、送ってよ」とリクエストが絶えず、出せば出すほどの入れ食い状態。「ベッカム選手は視聴率が取れる」と判断した本社から、レアル・マドリードへの移籍会見やアジアツアーなど大事なシーンの取材には「小西さん、行ってきて」と声が掛かるようになりました。

 他の人が注目していないニッチなネタだったから、私の仕事になったんです。

「念願の、私にしかできない仕事です!」
「念願の、私にしかできない仕事です!」