「哲学」ってむずかしいことだと思っていませんか? 「哲学」とは、「ものごとの正体を知ること」。哲学者の小川仁志さんが、身近なことを題材に分かりやすく哲学の視点から読み解きます。今回は映画「ニュー・シネマ・パラダイス」を哲学。こんなにも好きになれることがあるって、羨ましい。

可愛い子には旅をさせよ

 映画好きな人が、よくベストムービーに挙げる「ニュー・シネマ・パラダイス」。この作品は、音楽も有名ですよね。

 第二次世界大戦前のイタリアで、映写室と映画に魅せられ、そのとりことなった少年トト。彼は、あの手この手で映写技師のアルフレードを説き伏せ、助手にしてもらいます。

 広場の映画館は、村の人たちにとって唯一の憩いの場であり、交流の場でした。ところが、火事によって映画館は消失し、アルフレードも失明してしまいます。幸い、映画館は「ニュー・シネマ・パラダイス」という名で再建され、なんとトトが映画技師として活躍することになったのです。

 やがて時が経ち、トトは青年になります。そして、美しいエレナと恋に落ちます。しかし、幸せな時間は長くは続きませんでした。すれ違いの中で、二人の運命は引き裂かれてしまいます。ずっとあとになって判るのですが、実は二人を引き離したのはほかでもないアルフレードでした。彼は、トトの将来を思って、二人が駆け落ちなどすることのないよう、苦渋の選択をしたのです。

 トトは失意の中、アルフレードのアドバイス通りローマに旅立ちます。映画を作るという夢を叶えるために。そして、見事大成功します。

 30年後、アルフレードが死んだという知らせを受けたトトは、久々に村に帰ります。映画館は閉鎖され、かつての面影は無くなっていました。そんなトトの前に、エレナの娘が現れたのをきっかけに、トトとエレナは再会を果たします。30年ぶりに誤解も解け、二人の愛は再燃。最後はアルフレードが遺してくれた、懐かしい映像を見ながらトトが涙するシーンで幕を閉じます。

 さて、こう書いてくると、どうしても映画論や恋愛論を展開したくなりますが、あえて私は今回『公共哲学』の視点に着目したいと思います。