みんな違うからこそ、価値がある

 「天使にラブ・ソングを…」の中で、聖歌隊のメンバーたちは、修道女として厳しい規則に縛られて生活していました。そんな彼女らの個性を押し殺した生活ぶりを見て、デロリスはなんとかしてあげたいと思ったのです。彼女が聖歌隊の指導を引き受けた背景には、そうした心情もありました。

 「ダス・マン」として埋もれてしまっている修道女たちを、歌の力で現存在へと生まれ変わらせて、本来的な生を送らせてあげたい。デロリスはそんな思いから指導を買って出たわけです。実際、楽しく歌うことを覚えた修道女たちは、生まれ変わったかのように生き生きとした表情を見せ、そのそれぞれの喜びに満ちた声がハーモニーを紡ぎ出します。

 しかもデロリスは、修道女たちの心を解き放っただけでなく、教会そのものを地域に開かれたものにし、ついには大胆な音楽でカトリック教会のイメージそのものをも変えてしまいます。それは頑なに抵抗していたお堅い性格の修道院長や、法王までもがデロリスの音楽に惹かれていった様子からも明らかです。

 彼女の型破りな音楽もまた、人が自分らしく生きるということを象徴する大事な要素になっています。法王の前で合唱を披露することになったとき、最初修道院長は、従来のオーソドックスなスタイルでやるよう主張しました。でも、デロリスは型破りな音楽だからこそわざわざ法王が聴きに来てくれるのだと反論します。これはまさしく本来的な生の称揚(しょうよう)だといっていいでしょう。みんなと同じではないからこそ価値があるということです。

 私たちの日常も同じです。どこの職場にも、まだまだ慣習や伝統などという名の個性を殺す装置があふれています。ぜひそんな装置をぶち壊すためにも、自分らしく振る舞いましょう。きっと周囲の人たちはわかってくれるはずです。そしてみんなも声を上げ始めるはずです。やがてその声は美しいハーモニーとなり、職場を美しいラブソングで埋め尽くすに違いありません。

 働く女子にラブソングを!

天使にラブ・ソングを…
<ストーリー>
殺人現場を目撃してしまったクラブ歌手のデロリスは、ギャングに命をねらわれるはめになる。デロリスが身を隠した場所は、お堅い修道院。最初はおとなしく隠れていたが、聖歌隊のリーダーになって本領を発揮。ヘタクソなコーラスがソウルやロックのリズミカルな賛美歌に変わり、街中で評判になってテレビ中継までされてしまった。だが、それにギャングが気づかないわけがない。デロリスの無事は…。
販売元: ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント

Amazonで購入する

文/小川 仁志