サザエさんの世界は、現代社会にも通じること

 そこは信頼という言葉にヒントがあるように思います。和辻哲郎は前述の『倫理学』の中で、信頼について次のようにいっています。

信頼の現象は単に他を信ずるというだけではない。自他の関係における不定の未来に対してあらかじめ決定的態度を取ることである。かかることの可能であるゆえんは、人間存在において我々の背負っている過去が同時に我々の目指して行く未来であるからにほかならない。

 つまり、過去の信頼があるからこそ、未来においても信頼できるということです。人から信頼を得るためには実績が必要なのです。

 ここからわかるのは、人は信頼を得、それを保つために善行を続けるということです。人と人のつながりが濃い社会ほどそうした意識が強く働きます。「サザエさん」の時代の古き良き日本で、善き人であるためには、そうした振る舞いが不可欠だったわけです。私たちが「サザエさん」を好んで見るのも、このすさんだ時代に、それでも善き人であり続けたいからかもしれません。

文/小川仁志

サザエさん
<作品紹介>
作者の長谷川町子先生が、仕事を依頼されてから、どんな内容にするか、妹さんと一緒に毎日海岸を散歩しながら考えていたので、登場人物が、みんな海産物の名前になったということです。

原作:長谷川町子
販売元: 朝日新聞社

Amazonで購入する
この連載は、毎週木曜日に公開。下記の記事一覧ページに新しい記事がアップされますので、ぜひ、ブックマークして、お楽しみください!
記事一覧ページはこちら⇒【女子的あかるい哲学入門】