サザエさんがもつ概念とは
一言でいうと、私は間の取り方だと思っています。サザエさんは人との間の取り方がうまいのです。いや、サザエさんだけでなく、他の登場人物も今の時代の人たちに比べると、格段に間の取り方がうまいといえます。だからどのキャラクターも親しみやすいのです。波平さんやフネさんが親や祖父母だったら嬉しくないですか? マスオさんが夫だったらやりやすいですよ。もはやマスオさんはそういう娘婿の代名詞になっているくらいです。
ワカメやタラちゃんはもちろんのこと、カツオも憎めませんよね。もっと脇役な人たちも同じです。個人的には、アナゴさんなんて一緒に飲みに行きたいくらいです。あんな人当たりのいい同僚はいません、残念ながら私の周りには。
実は「サザエさん」の登場人物が自然に実践している間の取り方は、日本の哲学者、和辻哲郎※のいう間柄にほかなりません。
和辻は間柄という概念について、『倫理学』の中で次のように説明しています。
ここでは、個々の人間がいるから間柄が成立すると同時に、間柄があるからこそ個々の人間が成立しうるという二重の関係があるということをいっています。ただ、もう少し深くその意味するところを見てみると、間柄という概念こそが個々の人間を規定しているという見方もできるのではないでしょうか。
大事なのは個々人の間、関係性、距離だというわけです。その間のあり方がどうかによって、間の両端にいる二人の人間の感情が変わってきます。たとえばそれが男女であれば、愛し合うこともあるし、友達になることもあるし、信頼し合うこともあるし、憎しみ合うこともあるのです。
「サザエさん」の登場人物の場合、相手が誰であろうと、お互いに信頼を生み出せるほどよい距離を保っているわけです。だから人間関係がうまくいくのです。そしてその結果として、皆いい人に見えます。すると当然、彼らの世界像が理想的なものに見えてくるのです。
では、どうすればそんないい距離を保てるのでしょうか?