職業は“ニート”です

 次に、ブラックユーモアです。ニート、就活難、ブラック企業といった社会の暗い部分を笑い飛ばす痛快さ。これもウケている原因です。就職できない(あるいはしようともしない)ニートの6つ子たちの日常は、普通でいえば笑っていられる状況じゃないのですが、そこを肯定的に描いているところに、ドイツの哲学者ニーチェのいう能動的ニヒリズムのようなものを垣間見ることができます。

フリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)。ドイツの哲学者。人生の苦しみを「超人」思想で乗り越えよと説く。同じことの繰り返しである「永遠回帰」を克服するには、運命から逃げるのではなく、むしろそれを受け入れるよりほかないという。

 ニーチェの能動的ニヒリズムは、社会に対してルサンチマン(憤り)を抱きながらも、それを受け入れることで乗り越えていこうとする思想です。どれだけ社会からはじき出されようが、図太く生きていこうとする6つ子の姿に、ニーチェ的な生き方を感じざるを得ません。社会が閉塞する中、『ニーチェの言葉』がベストセラーになったのは記憶に新しいところです。そんなニーチェ人気とも重なる現象だといっていいでしょう。

イケメン、女体化、ボーイズラブ・・・萌えるしかない

 最後は女子会ノリです。つまり、女子同士が盛り上がるという視点で描かれているということです。6つ子は時々イケメンになって、ジャニーズ系アイドルとイメージがかぶるように工夫されています。しかも最近のお笑いもいけるアイドルです。イケメンとお笑い芸人の両方を意識させるキャラ設定になっているわけです。これは今一番人気がある男子像ですから。

 下ネタや性の描き方も、まるで男子の秘密を覗き見るかのような雰囲気にしてあります。その他、ストレートにボーイズラブを描いたり、「じょし松さん」という女子会設定のネタまではさんできます。

 女子会というのは、男子を「主体」ではなくあくまで「客体」にすることで、愛着の対象にしてしまう点が特徴です。つまりネタなのです。そして、あたかもアクセサリーやペットのように扱うのです。

 フランスの哲学者デカルトは、『情念論』の中で愛について三つに分類しています。愛着、友愛、献身の三つです。これでいうと、友愛が女子同士の友情の愛、献身が本当の恋愛、そして女子会ノリで男子をネタにするのが愛着に当たるでしょう。

ルネ・デカルト(1596-1650)。フランスの哲学者。疑い得ないのは意識だけであるとする「我思う、ゆえに我あり」という言葉で有名。また、人間の知識は生まれながらに持っている「生得観念」に基づくとする大陸合理論の創始者として知られる。

 デカルトによると、愛着においては、「愛の対象を自分以下に評価」し、「愛するものよりもつねに自分を選」ぶことになります。月曜の深夜に1人で「おそ松さん」を見るのは、疑似女子会のようなものなのです。

 以上のように、「おそ松さん」が受ける要素は満載なのですが、それぞれのキャラクターやストーリーには、そこから学ぶことのできる哲学的エッセンスがまだまだ隠されています。この連載では「おそ松さん」をはじめ、あなたの身近な人気の「正体」を暴いてみたいと思います。きっと「哲学」が、何倍も楽しくなるはずです。お楽しみに!

構成/尾崎悠子