失業保険はすぐにもらえない

 会社を辞めて、次の仕事が見つかるまでの経済的支援として、雇用保険の失業給付(正式には基本手当)があります。これは、ハローワークに求職の申し込みをして、条件を満たせば離職前の収入に応じた手当が支給されるものです。

 Fさんの場合、求職中1日当たり約7000円の手当が最長120日間にわたって支給されます。その間に次の就職先が見つかればその時点で終了しますが、最後まで受け取ると総額は約85万円。失業中には心強い収入です。

 ただし、自己都合で退職する場合、手当の受け取りまでには、ハローワークに離職票を提出してから7日間(待期期間)+3カ月(受給制限期間)かかります(注:会社都合の場合は待期期間のみで受給制限期間がない)。手続きのタイミングによっては、受け取れるまでに4カ月近くかかることもあります。その間は収入ゼロで生活していくことになります。

 なお、失業給付を受け取っている間は、文字通り「失業状態」でなければなりません。生活の足しにとアルバイトをしたり、自営業を始めたりすると手当を受け取れなくなります。失業給付を受け取るなら、それ以外の収入はないと覚悟する必要があります。

約4カ月の収入ゼロ、支出増でも耐えられるか?

 このように、退職をしてから転職先を探す場合、約4カ月間は収入ゼロでも家計をやりくりできるか、さらに税金と社会保険料を払っていけるかを考えておく必要があります。

 さらにいえば、交通費もばかになりません。退職したら、会社員時代よりも生活費が増えると覚悟しておく方が安全です。こういった支出に備えて、4カ月分プラスアルファとして、およそ半年分の生活費は少なくとも用意しておきたいものです。Fさんの場合は150万円が目安になります。

 Fさんには500万円の貯蓄がありますから、失業給付が出るまでの生活費と税金・社会保険料の負担には十分耐えられます。お金の面では、転職活動に専念しても問題なさそうです。

 ただ、あえてもうひとつ付け加えると、給与収入がなくなったときに精神的に耐えられるかどうかも考えておきたいものです。

 いくら貯蓄が十分にあっても、それまで毎月入ってきていたお給料がいざストップすると、たいていの人は不安になります。それまでは右肩上がりに増えていた貯蓄が今度は減っていき、転職先が決まるまでは、それがいつまで続くかわかりません。条件を満たせば失業給付を受け取れるとはいえ、次の仕事が決まるまでは気持ちの面で自分との闘いになります。

 かくいう私も、これまでに3度の転職を経験しています。特に最初の転職時には、次の仕事に就くまでブランクがあったのですが、会社員の時にはなかった想定外の出費の多さに、次の仕事が決まるまで貯蓄がもつのか、不安でなりませんでした。実際には、ここが転職活動中に一番きついポイントだと思います。

 Fさんは、それでも一度仕事を辞める決断をしました。33歳はそろそろ結婚や出産も考えたい年齢ですから、自分の意思で自分のキャリアために100%の時間を使えるのは、今が最後のチャンスだと考えたからです。いま、Fさんは退職の準備をしながら、かねてから興味があったインテリア業界への転職を目指して、資格の勉強も始めています。

 結婚、出産を意識する女性にとって、30代はキャリアや収入の大きな変化を避けて通れません。家事育児などの制約のため、思うようなキャリアが築けないジレンマに苛まれるリスクもあります。これまで築いてきたキャリアを活かすにしても、大幅なキャリアチェンジをするにしても、思い切った決断をできるチャンスは、人生でいつもあるわけではありません。Fさんには、ぜひこのチャンスを生かして、新しいキャリアの道を切り開いていってほしいなと思いました。

 転職を考えるときには、次の仕事を得るまでの流れや、ブランクが発生するときはその間の生活費など、目先のお金のことはぜひシミュレーションしておきたいものです。それと同時に、自分の人生やキャリアといった長期的なビジョンもじっくりと考えながら、納得いく決断をしたいものですね。

 今回で短期集中連載「マネーと自分を見直す方法」は最終回です。仕事にプライベートに忙しい女性のみなさんは、キャリア、人生、そしてそれにまつわるお金のお悩みも多いもの。また、複数のお悩みを同時に抱えていて、何から手を付けてよいかわからず、なんだかいつも漠然とした不安が尽きない、という声もよく聞きます。今回の連載では、まずはお金の問題を整理して、具体的な解決に向けてアクションを取るヒントをお伝えしてきました。みなさんにとって、将来が明るくなるきっかけになれば幸いです。

文/加藤梨里 監修/日本FP協会 写真/PIXTA