10年後には約半分の仕事が自動化されるかも

 AIの研究を行うマイケル・A・オズボーン博士は、「今後10~20年程度で、アメリカの総雇用者の約47%の仕事が自動化される可能性が高い」としています。

 つまり自動化されて便利になった分、省力化を実現できます。先ほど紹介したスーパーの例では、6台のレジがセルフレジになり、レジ担当の店員を減らすことができます。配送員もドローンの活躍で減らせます。税務処理やローンの査定に関わる事務作業員の人数も減らせるというわけです。

 一方で、セルフレジの精算システムやドローンの配送システムなど、自動化システムを作ったり管理したりする人は必要になります。つまり、より専門性の高い人が必要とされる可能性が高まるわけです。

 こういった流れを受けて、特に、「STEM」と呼ばれる職業が強くなるだろうといわれています。STEMは理工系のハイテク産業で必要とされる分野で「Science(サイエンス=科学)」「Technology(テクノロジー=科学技術)」「Engineering(エンジニアリング=工学)」「Mathematics(数学)」の頭文字から取られています。つまり、多くはAIを作る側です。

 例えば、私たちが1週間かけて読み調べてまとめる資料があったとします。これがAIの手に掛かれば、資料をスキャンして記憶して数分で終了します。さらにパターンを記憶させておけば、必要な部分を自動的に会議資料にアウトプットすることだって可能です。多量のデータを処理したり、単純なパターンで繰り返したりする作業は、AIのスピードにはとてもかないません。つまり、こういった作業はAIに任せて、人を減らせます。

 では、コンピューターが代われる職種の人は皆、失業するかというと……人が必要とされる場面は必ずあるもの。「やっぱりこの人がいい」とされるのは、どんな場面で、どんな人なのでしょうか。

AI時代に「必要とされる人」になるには

 コンピューターはデータを蓄積して解析する作業は得意。でも、今までなかったことを生み出すこと、何かを発想して新しいことに応用すること、人の気持ちを感じ取ることは、まだ人間にしかできません。

人にしかできないことはまだたくさんある (C) PIXTA
人にしかできないことはまだたくさんある (C) PIXTA

 ただ事務的に作業をこなすなら、素早くできる機械はこの上なし。でも、「寝ているから起こさないように」といった人間同士の心遣いだって必要です。データを集めて分析した商品企画はAIで実現できますが、例えば「かわいいニュアンスにこだわる」「なんかイイ」といった微妙な発想や細かい部分に生きるセンスを発揮して企画できるのは、人間ならでは。

 こうした時代の流れの中で、2020年の大学入試改革に伴い、学校の試験がさま変わりしています。機械でもできるマークシートや暗記の答えをただ書くのではなく、例えば、「なぜそこに水田を作るのか」という理由を、川や地形を地図から読み取りながら、気候や時代などさまざまな事象を掛け合わせて記述するといったものに変わってきました。

 AI時代に求められる人材は、「柔らかく論理的な発想」を持った人と、その場に合わせた「臨機応変な対応」ができる人。簡単にいえば、「かゆいところに手が届く発想、応用力、気配りを持つ人」といったところでしょうか。機械にできない発想と気遣いをこれからのキーワードにすれば、AIなんかに負けない人になれそうです。

文/上野陽子 写真/PIXTA