発酵食は身近な存在。でも、知らないことも多い。「発酵」と「腐敗」の違いから、自作するときの注意点、話題の「酵素」「酵母」といった言葉の意味まで、基礎知識をまとめました。

. そもそも発酵ってどういうこと?

. 微生物や酵素が食材の栄養素を分解したり変化させたりすることです。

 発酵を起こすのは主に、細菌類、カビ類、酵母類の3種類の微生物。これらは、自分が生きていくために食材の成分を取り込み、代謝して不要なものを放出する。つまり、発酵過程で作られる成分は、微生物にとって“排せつ物”。それがたまたま人間にとっては有用な栄養素だったり、おいしいと感じられる「うまみ」になったりするため、発酵食として食べられているというわけ。

 ただ、「こうした発酵の仕組みがわかるはるか前から、温度や通気性を整えて発酵を進める技術が、世界各地で培われてきた」(東京農業大学の小泉幸道教授)。発酵の仕組みを知らない昔の人にとって、置いておくだけで食べ物がおいしく変化していく様子は「自然の神秘」と映っただろう。

 また、東京家政大学大学院の藤井建夫客員教授によると、「昔から発酵食として扱われてきたものの中には、実は微生物が関わっていないものもある」。その一例が、イカの塩辛やイワシから作るアンチョビなどだ。

 イカの塩辛やアンチョビができるときに働くのは、微生物ではなくその食材自体に含まれる消化酵素。「酵素」とは、生き物の体内で化学反応を制御するたんぱく質分子で、人間から微生物まで、あらゆる生物は体内に数千~数万種類の酵素を持っている。消化酵素は文字通り消化に関わる酵素で、これがイカやイワシといった食材自体を分解し、微生物による発酵と同じようなうまみを出しているのだ。

 ところで、健康食品やドリンクに含まれる酵素や酵母をとることは、体にどんな効果があるのだろう。まず、これらのドリンクには、発酵食と同様、微生物や酵素によって作り出された栄養成分が含まれている。また、ビール酵母のように豊富な栄養素を含むことがわかっているものもある。ただ、製造過程で加熱殺菌されている製品は、酵素や酵母の活性が失われている可能性も高い。見極めが必要だろう。

発酵を起こさせる微生物や酵素は主に4種類

<カビ系>
食品表面で繁殖し、独特の風味を生み出す
繁殖具合でサイズは異なる。大きいカビは目に見える。小さいものは胞子で約10µm。発酵食では、カビが食品の表面で発芽して食材を分解、風味を出す。


<細菌系>
細菌の特性により発酵食の味が決まる
細胞内に核を持たない原始的な単細胞生物。サイズは110µm程度。酸素がなくても生きられるものも多い。代表例は乳酸を作る乳酸菌。


<酵母系>
アルコールや炭酸ガスを生み出す
5~1010µm程度の単細胞生物。お酒造りやパン作りに欠かせない存在だ。糖質を分解してアルコールや炭酸ガスを放出する。

<酵素系>
生き物ではないが発酵の担い手
酵素は生き物ではなく、化学反応を制御するたんぱく質分子。海産物の自己融解は、食材自体が持つ消化酵素の働きで分解が進む。

写真提供3点とも:小泉幸道教授