. 発酵と腐敗はどう違う?

. 人間にとって“良い”か“悪い”かの違いです。

 「発酵と腐敗は、基本的には同じもの」――藤井客員教授はこう話す。微生物によって食品が変化するという意味で、両者は一緒。人間にとっておいしい、いい香りがするなど「良いもの」ならば「発酵」、変な味がする、くさいなど「悪いもの」なら「腐敗」と呼ばれるのだ。

 例えば、「蒸し大豆をわらで包んで保温すれば納豆になる。これは発酵です。ところが、蒸した大豆をその辺に放置して、粘ついて納豆のようなにおいがしてきたら腐敗ですよね」(藤井客員教授)。その判別も実にあいまいだ。

 ちなみに、「腐ったものを食べると食中毒になる」と考えている人もいるだろうが、これは間違い。腐敗を起こす菌と食中毒を起こす菌は、通常、別のものだ。腐ったものを食べたからといって、食中毒になるとは限らない。逆にいえば、腐敗していなくても、食中毒を起こす可能性はあるということ。衛生管理には気をつけよう

「腐敗」と「発酵」の現象は同じ
「腐敗」と「発酵」の現象は同じ
微生物にとって発酵と腐敗の間に差はない。両者を分けるのは人間の都合だ。美味しいものが出来れば発酵、食べられなくなれば腐敗と呼ばれる。

. 発酵食を自宅で作るときの注意点は?

. 温度管理と消毒が大切です。

 発酵食を作るとき、「まず大切なのが、温度管理」と小泉教授。活動するのに最適の温度は微生物によって違う(下表)。温度が低いと発酵が進まないが、高いと雑菌の活動まで活発になることがある。

 もう一つのポイントは消毒。食材や手指は清潔に保つのはもちろん、調理に使う器具や保存容器はあらかじめ煮沸消毒して殺菌しておく。発酵中にかき混ぜるときも、雑菌が入らないように注意しよう。

主な発酵菌の活動が活発になる温度
主な発酵菌の活動が活発になる温度
発酵食を作るときは、発酵を起こす菌などが活動しやすい環境が大切。夏は冷暗所や冷蔵庫に保存しよう。
(データ:岡田早苗『発酵食品 食材&使いこなし手帖』から抜粋)

この人たちに聞きました
小泉幸道教授
東京農業大学 副学長/醸造科学科
専門は発酵食品学、醸造学(酢)。発酵食の科学的な成分変化と機能性に関する研究を行う。「発酵食には、食の歴史が刻まれています。微生物がもたらす限りない恩恵に感謝しましょう」。

藤井建夫客員教授
東京家政大学大学院 人間生活学総合研究所
東京海洋大学名誉教授。専門分野は食品微生物学で、特に海産物由来の発酵食に精通する。「伝統的な発酵食の中には、メカニズムがまだ未解明のものも多い。絶やさないように製法を伝えていくことも必要です」。

取材・文/北村昌陽 写真/大槻純一

日経ヘルス2015年3月号掲載記事を転載
この記事は雑誌記事執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります