世界的ベストセラー『ワーク・シフト』の著者でロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンさんがこの度、新刊『ライフシフト~100年時代の人生戦略』の発売を記念し、東京・大手町で来日講演を行いました。人材論・組織論の権威であるリンダさんによる新しい生き方、働き方の提唱に、会場を埋め尽くした参加者は熱心に耳を傾けていました。

長寿化で若々しく活動する時間が劇的に増える

 戦後70年が過ぎた日本。日本人の平均寿命は約70年前は50代前半でしたが、今や男性は80歳、女性は87歳まで伸びました。国連の推計によれば、2050年までに日本の100歳以上の人口は100万人を突破する見込みとのこと。当たり前に100歳まで生きる時代を迎えるとき、どんな人生戦略が必要となるのでしょうか。

 リンダさんはまず「長寿化の話題はネガティブに捉えられがちですが、長く生きることは『禍(わざわい)』ではありません」と指摘します。

 「日本は高齢化と低出産率の課題に直面していますが、長寿化自体は『より若々しく活動する時間が増える』ということであり、その恩恵をどうすれば個人や社会全体で享受できるのかを考える必要があります」。

“人生100年時代”では、65歳引退が非現実的に

 そうはいっても、長寿化で気になるのが老後資金の問題です。100歳の人生のうち、何年間働く必要が出てくるのでしょうか。

 リンダさんは『ライフシフト』で世代別に架空の3人(ジャック・ジミー・ジェーン)を登場させ、“65歳で定年”というこれまでの働き方への問題提起をしています。

 最初の登場人物であるジャックは1945年生まれの70代。この世代の平均寿命は70歳前後で、“教育→仕事→引退”という3ステージの人生が最もうまく機能した人たちです。日本の高度成長期を支えた世代でもあり、その後の世代の生き方にも、強い影響を与えています。

 二人目のジミーは1971年生まれの40代で、父親がちょうどジャック世代です。

 「彼は父親と同じように65歳で定年したいと考えていますが、この世代の平均寿命は85歳(※イギリス国家統計局のデータによる)ですので、65歳で現役を退くとなると、年金生活が父親世代よりもずっと長くなります。ジャックの世代が65歳で引退するためには、毎年所得の4.3%を貯蓄に回せばよかったのですが、ジミーの世代は、17.2%を貯蓄しなければなりません。日本人は貯金率が高いと聞きますが、果たして17.2%を貯蓄に回せる人はどのくらいいるでしょうか。ちなみにアメリカでは、貯金可能な人はほとんどいないと言っていいでしょう」。