勉強漬けだった3年間 支えになったのは

――同世代の友人が社会人として仕事や休日を楽しんでいるなか、Mさんはアルバイトをしながら専門学校に通っていたわけですが、周囲を見て羨ましく思うことはありませんでしたか?

M:そうですね。アルバイト先(歯科医院)で同世代のスタッフと話していた時、「ゴールデンウィークはどこに行く?」という話題になり、正社員の友人たちはそれぞれ旅行の計画を話していました。一方、私はテスト勉強の日々。年度末の国家試験の直前で慌てなくてもいいように一つひとつ入念に知識を詰め込んでいったので、専門学校に通っていた3年間はまさに勉強漬け。しんどい時は、「早く社会人に戻りたい」と思うこともありましたね(笑)。

 ただ、専門学校に行くと、私と同じ境遇の仲間と励まし合えます。特に当時の私の学年は社会人が60人中7人もいて、お互いの悩みを共有したり相談したりして笑い飛ばしていました。彼女たちがいなかったら、ここまで頑張れなかったと思います。

 また、自分を鼓舞するために、手帳の年間ページで、「卒業まであと何日」と書いてカウントダウン。1年後を想像して「来年の今ごろは……」と思い描いて、乗り切りました。

――在学中、家族やパートナーとはどう付き合っていましたか?

M:当時は、まだ結婚しておらず、今の夫と付き合っていました。彼も転職したばかりで収入が少なく、いつも同じ服で貧乏デートをしていましたが、私の転職をずっと応援してくれていました。

 両親も「やりたいことをやりなさい」と背中を押してくれ、最初は私一人で何も言わずに歯科衛生士の学校を探していたのですが、偶然パソコンの履歴を見た父親が私の気持ちを察してくれて、「通うなら早いほうがいい」と、資金を捻出して学費の援助をしてくれたのです。家族やパートナーには心から感謝しています。

――多くの人に支えられて今があるんですね。実際に転職を経験して、働きながら生きていくためには何が大切だと感じましたか?

M:やっぱり、「手に職」をつけておくと安心感があります。歯科医院によって異なりますが、私が働いている歯科医院は、資格がなくてもできる歯科助手の仕事は時給900円程度、国家資格が必要な歯科衛生士は1400円程度です。長く働き続けることを考えると、国家資格を取ってよかった。万が一家族が働けなくなったとしても、歯科衛生士の資格があればなんとなかなるかな、と思えるようになりました。

 もし、子育てや介護などで一時的に仕事から離れることがあったとしても、歯科衛生士として働いた経験があれば復職後もゼロからのスタートにはなりません。実際に約20年のブランクを経て復帰した先輩もいて、彼女は医療現場で使われる専門用語や歯科医院独特の雰囲気を理解した上で復職できたため、現場にすぐなじめたと聞きました。

――前職の管理栄養士も「手に職」といわれる職業ですよね。歯科衛生士との違いは?

M:私が管理栄養士として働いていた総合病院は残業が多く、さらに早番・日勤・遅番で出勤時間が大きく異なるため体のリズムを整えるのが難しい状況でした。また休日出勤もあり、やっと取れた有休は体を休めるだけで精いっぱい。家族や友人と過ごす時間はゼロに近かったと思います。もちろん、管理栄養士の資格を生かした他の仕事も探してみましたが、当時は、「医療の現場に身を置きながらもワークライフバランスが取れた生活を送りたい」という思いが強く、医院やクリニックなど小規模な施設で患者のために働ける歯科衛生士という仕事と出合って「これだ!」と思いました。

 歯科衛生士となった今は、出退勤にほとんど変動がなく体調もいいですね。日曜は休診日なので必ず休むことができ、友人や夫と出掛けるなど自分の好きなことに時間を費やせています。そして何より、仕事が楽しいと思えるようになったのが一番の喜びです。ささいなことですが、歯磨き指導をした患者さんが歯をきれいに磨いてきてくれたり、歯科医師の先生に褒められたり。一つ一つがやりがいにつながっていますね。

 回り道だったようにも思えますが、今後歯科医院で栄養面の指導を行うときにはきっと、前職で得た知識も役に立つと感じています。いろいろな経験を経て、最終的に歯科衛生士という仕事に就きましたが、改めて「手に職」を持つことで自分が自信を持てることを実感しています。