「ついカッとなって職場で怒鳴ってしまった」「仕事でのイライラを引きずって、家族や彼氏に当たってしまった」など、抑えられない「怒り」を感じて悩んでいる人は多いのでは。そこで今回は、日本アンガーマネジメント協会理事の戸田久実さんに、怒りと上手に付き合う心理トレーニング「アンガーマネジメント」について教えてもらいました。するとどうやら、大切なのは「怒り」を抑えたり我慢したりすることではないようです。全2回の前編では、怒りの原因や仕組み、性質について解説します。

前編:なぜ私たちは怒ってしまうのか「怒り」の専門家に聞く(この記事)
後編:「怒り」を対処 すぐできる感情コントロール&伝え方(7月27日公開予定)


「怒り」の原因は? イライラが生み出される仕組み

 激しい怒りをコントロールできずにいたり、ささいなことでイライラしたり。人や自分を責めてモノを壊したり、過去のことを思い出して腹を立てたり……。「怒り」の出方は人それぞれですが、「何が原因で自分が怒っているのかを突き止めると、怒りの扱いがしやすくなる」と、日本アンガーマネジメント協会理事の戸田久実さんは言います。では、私たちを悩ませる怒りの原因は何なのでしょうか。

 「怒りの本当の原因は、相手でも環境でも状況でもなく、自分の中にあります。なぜなら怒りの感情は、『こうあってほしい』『こうあるはずだ』という、自分の理想や期待、願望が裏切られたときに生まれるものだからです。つまり怒りの原因は、『自分自身のゆずれない価値観』。誰かにイライラさせられたわけでも、怒らされたわけでもありません。怒りは、自分自身が生み出した感情なのです」

 この自分自身のゆずれない価値観や理想、期待、願望を象徴する言葉が、「べき」であると戸田さんは指摘します。皆さんも、普段の生活の中で「~するべき」「~であるべき」という言葉を思い浮かべたり、使ったりすることはありませんか? 下記に、「べき」の一例を挙げてみます。

・時間は守るべき

・挨拶はするべき

・電車内の座席は高齢者にゆずるべき

・先輩がアドバイスをしたら、後輩はそれに倣うべき

・上司は部下の仕事量やキャパシティーを把握しておくべき


 このような「べき」の中には、これまでの経験を通して身に付いたものや、育った家庭での信条をもとにしたものもあるでしょう。しかし「この『べき』は、誰にでも通じる『常識』や『当たり前』ではありません。自分にとっては普通のことでも、相手にとってはそうでないということはよくあります」と、戸田さん。

 「ですから、怒りを感じて『普通はこうだよね』『こうするのが当たり前』と思ったときには、自分の中のどんな『べき』が、自分をイライラさせているのかを考えてみてください。怒りは、『自分自身のゆずれない価値観=べき』が原因で生まれますが、それぞれの『べき』自体に、正解・不正解はありません。長年信じてきた自分の『べき』は、自分にとっては真実。ただ、すべての人にとっての真実ではないということを意識して、それぞれの違いを受け止めることが大切です」

怒りの裏側にあるのは、「悲しい」「つらい」「寂しい」「不安」「苦しい」などの一次感情

怒りの裏側には「一次感情」が潜んでいました (C)PIXTA
怒りの裏側には「一次感情」が潜んでいました (C)PIXTA

 今度は、また別の角度から「怒り」について考えてみましょう。

 他の感情と比べると、強いエネルギーを持っている「怒り」ですが、実は怒りは「二次感情」ともいわれているそうです。「強い感情のため、その裏側に潜んでいる感情になかなか気付けないのですが、怒りの裏側には、本来分かってほしい感情である『一次感情』がある」と、戸田さん。

 「こうあってほしいという期待や理想が裏切られ、分かってほしいと思うことが分かってもらえなかったときに怒りは生まれます。その際、怒りの裏側にある『悲しい』『つらい』『寂しい』『不安』『苦しい』というネガティブな感情である一次感情に目を向けてほしいのです」

 例えば、約束を破られ「なんで約束を破るの!?」と怒りで対応することはないですか。その気持ちの裏側に、約束を破られて「悲しい」「さみしい」という気持ちが潜んでいるならば、「約束を破られて悲しい」「会う約束を楽しみにしていたので、さみしい」というように気持ちを言葉にしてみてください。

 「身近な人には、『悲しい』『さみしい』といった気持ちを、素直に言えないことがあるかもしれません。でも、そんなときこそ『本来分かってほしい気持ちは何なのか』に目を向けて、それを相手に伝えるにはどうしたらいいのかを、落ち着いて考えるようにしましょう。感情的になるのではなく、気持ちを言葉にすることをおすすめします」