エッセー集のなかには、イヌとの仲の良さを切り取った写真も多い。下はスペインのシエラネバダでの写真だ。

 「この子ネコ、イヌが勢いよく舐めるので頭がフラフラしてたんですよ。いい迷惑なんじゃないかなと思いましたが、そのままずっといました。この家のお嬢さんがネコもイヌも大好きで連れてきてくれたんですが、子ネコは家に来たばかり。この家になじむためには昔からいるイヌに気に入られないといけない。大げさなようですが、庇護されてなくては生きていけない子ネコにとって、それはとても重要なことです。子ネコもそれがわかっていて、舐められようが押さえつけられようが、ここは我慢のしどころ、と踏ん張っていました。小さいながら生きる知恵を身につけています」

 ネコは警戒心が強く、打ち解けるのに時間がかかるもの。だが岩合さんが撮るネコたちは、どのネコもふだんの素顔を見せてくれている。カメラが好きなネコもいるのだろうか?

 「津軽のりんご農園に暮らすネコの一家を撮り続けているんですが、リッキーというオスは勘のいいやつで、僕が行くと明らかに“お前、また来たな”って顔をして、カメラを向けるとキリッとした男前の顔をするんですよ。生まれた時から撮っているので、カメラ慣れしすぎちゃったかなと苦笑いしています。ほかにも、一緒に暮らした海ちゃんというネコは、モデルみたいに、カメラを向けると意識して自ら動いてくれるようなネコでした。

 そういう、カメラを意識するネコっているんです。この間もスリランカで、そういうネコに会いました。何かしなきゃいけないと思うみたいで、ホテルの看板に飛びついて、また戻ってきたりして。“そんなこと、僕は望んでないよ”と話しかけたんですけどね(笑)。レンズが向こうを向くと座って横になるんですが、またレンズを向けたら動き始めるんです。レンズというより、こちらの意識がそのネコに集中するからなのかもしれませんね」

 明日は、岩合さんからネコを撮る秘訣をお聞きします!


『ネコへの恋文』
 著者:岩合 光昭
 出版:日経BP社
 価格:1,512円(税込み)
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取材・文/郡司真紀、岩合さんポートレイト写真/的野弘路、ネコ写真提供/岩合光昭
構成/白澤淳子(日経ヘルス編集)