娘からもらったラッキーを生かしたい

――娘の麻紀さんがいるからこそ、ナミねぇもここまでがんばれるんですね。

ナミねぇ 私は子どものころからめっちゃワルで、親不孝の限りを尽くしてきたような娘なんです。ところがうちの両親は、私が何をしても怒ったことがないんです。だから、私は親子ってそういうもんで、どんなことをしても許す、受け止めるのが親と子の間柄だって、しみついてたんですね。

 だから、娘を授かって、障害があるとわかったとき、不幸だなんてまったく思わなかった。ずっと、この子と毎日元気に楽しく暮らすことしか考えてこなかったんです。

 人って子どもが生まれるとき、五体満足で元気に生まれてほしいと思うのは当たり前なんだけど、でも、いざ授かった子に障害があったとしても、この子は私を必要としている、私こそがこの子を育てられるんだという気持ちに変わることができる。それが人間のすごいところ。そういう母親の強さをしっかりと応援するのが、本当の社会福祉だと思います。

 私は麻紀のおかげで更生できたようなものですからね。娘からラッキーをもらったから、それを絶対に生かす、私が死んでも娘が安心して生きられる社会をつくることを、おかんとしては目指していきたい。

ナミねぇと娘の麻紀さん。「娘からラッキーをもらったから、それを絶対に生かす。私が死んでも娘が安心して生きられる社会をつくりたい」
ナミねぇと娘の麻紀さん。「娘からラッキーをもらったから、それを絶対に生かす。私が死んでも娘が安心して生きられる社会をつくりたい」

あなたの悩みはみんなの悩みかもしれない

――働く女性たちに向けて、メッセージをお願いします。

ナミねぇ 女性たちに多様な職業の選択肢があり、キャリアアップしたり、ステイタスを築いたりできるようになったのは、ほんの最近のことですよね。まだ道半ばかもしれないけれど、たくさんの方々の営々とした努力があって少しずつ環境が整ってきたのだと思います。

 だからこそ、相模原の施設の事件のように、負のエネルギーがまき散らされるような、マイナスなことが起きないように、心を同じくする人たちが力を合わせていきましょうね、あなたもその一人でいてくださいね、と思います。

 それが、チャレンジドの問題とつながっていくと思います。

 最近、若い女性が過労自殺するという悲しいニュースがありました。一人が抱える問題が、実は社会とつながっているということは多い。あなたと同じことで悩んでいる人はたくさんいるかもしれないということです。だから、辛いことを抱えていたら、「これは私だけの悩みだから」と思わないで、悩みを共有できる人の輪を作って、社会問題として解決できる道を探ってほしいと思います。

文/田北みずほ 写真/水野真澄

竹中なみ

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。1948年、神戸市生まれ。24歳のとき、重症心身障害の長女を授かったことから、独学で障害児医療、福祉、教育を学ぶ。1991年、プロップ・ステーションを発足。1998年に厚生大臣認可の社会福祉法人格を取得し、理事長に。財務省財政制度等審議会委員をはじめ主要省庁の委員を歴任。2009年に米国大使館から「勇気ある日本女性賞」受賞。「ナミねぇBAND」を結成しボーカリストとしても活動中。