日本の女性は、もっと自分本位でいい

――女性が働き続けることが当たり前になってきたとはいえ、世の中はまだまだ男性優位。会社の人間関係に悩む女性も少なくありません。特に諏訪さんが飛び込んだ町工場の世界は男社会のイメージがあります。苦手なタイプの方に出会ったとき、諏訪さんはどのように対処してこられましたか?

諏訪 人が誰かを「苦手だな」と思うのは、「私だったらこんな言い方はしないのに」とか、相手が自分の常識外のことをするからではないでしょうか。それは裏を返せば、苦手と思う相手が、自分にはない感性を持っているということ。感覚が合わないと思ったら、「どうしてこの人はそんなふうに考えるんだろう」と興味が湧いてくるので、実は、私には「苦手な相手」がほとんどいないんです。仮に苦手と思ったとしても、「どう攻略するか」を考えると逆に燃えるのが私の性格(笑)。会話の中からその糸口を探っていくのは本当に面白いですよ。

 私は初対面の人に会うとき、相手のいいところを探して「相手を好きになる」ことを心がけています。自分が好意を持っていると、相手にもその気持ちが伝わって、自然と相手も自分を好きになってくれるものです。最初から苦手意識を持たないことも、人間関係を円滑にするポイントではないでしょうか。

――例えば怖い上司がいて、何をやっても頭ごなしに怒られるような状況だったら、諏訪さんはどうしますか。

諏訪 相手が自分のことを考えて叱ってくれているなら別ですが、感情的に怒鳴られるようなことが続くとストレスがたまってしまいますよね。そんなときには「魂を抜く」ことをおすすめします。その場面から意識を飛ばして、その時間をどうやり過ごすかを考えるんです。上司の言葉だからといって、何もかも正面から受け止める必要はないと思いますよ。

――これからの時代は、会社の中にも女性リーダーが増えていくと思います。経営者として、諏訪さんが従業員とのコミュニケーションの中で気を付けていることはありますか。

諏訪 実は、私はもともと「沸点の高い」性格で、感情的に怒ることがほとんどないんです。とはいえ企業はチームですから、「ダメなことはダメ」ときっちり叱って引き締めなければならないこともあります。そんなときには、朝からスイッチを入れて、「今日はこれを言わなければならない」と気合いを入れます。めったに怒らない私が誰かを叱ると、30分以内に全社員に「今日、社長が怒ってる」と噂が広がりますよ(笑)。

――自分に自信が持てず、職場でも言いたいことを飲み込んでモヤモヤしてしまう……という女性が少なくありません。

諏訪 日本の女性は「もっと自分本位でいい」と私は考えています。日本は我慢が美徳とされてきた社会です。相手の反応や顔色をうかがって言葉を選ぶことも多いと思うのですが、自分が意識しているほど、他人は自分のことを気にしていないもの。自分の思いをどんどん相手に伝えたほうがいいです。言いたいことを我慢して、ため込むのが一番ストレスになりますからね。生意気と言われることもあるかもしれないけれど、生意気で結構じゃないですか。思い切って、やりたいことを言葉で伝えるところから、道が開けていきますよ。

<次回につづく>

聞き手・文/高橋実帆子 写真/稲垣純也


「町工場の娘 主婦から社長になった2代目の10年戦争」

著者:諏訪貴子
出版:日経BP社
価格:1728円(税込)
Amazonで購入する