世界的なニュースメディア『CNNインターナショナル』で米国以外の編集部門トップとして活躍するエレーナ・リーさん。ご自身のキャリアの軌跡を基に、女性が活躍する環境を作るために私たちにできることや心がけを聞きました。

Ellana Lee(エレーナ・リー)
Ellana Lee(エレーナ・リー)
国際ニュースを扱う『CNNインターナショナル』の上級副社長兼編集総責任者。1971年韓国・ソウル生まれ。米ジョージタウン大学で歴史と国際関係の学士号を、ニューヨーク大学でブロードキャスト・ジャーナリズムの修士号を取得した後、97年にCNNに入社。プロデューサーとして、ニューヨーク支局で番組『In The Money』の立ち上げなどを手がけ、アジア太平洋地域を拠点にアジア発の主要ニュース配信に携わる。現在は米国以外の編集部門トップとして香港を拠点に活動中。エレーナさんの陣頭指揮の下、CNNでは8月以降、2020年の東京五輪を見据えて「Discover Japan」をはじめ日本の文化やテクノロジーなどに焦点を当てた番組を随時放送している。

ルール1 地味な仕事にも前向きに取り組む

――大学院時代にインターン生としてCNNに入った当時、仕事の8割はコピー取りだったそうですね。

 米ニューヨーク大学でジャーナリズムを学んでいたとき、インターンシップ先としてキャリアカウンセラーに薦められたのが『CNNフィナンシャルニュース』でした。とはいえ金融についてはまったく知識がありません。しかも、私に与えられた仕事の大半は資料のコピーをすることでした。

 「コピー取りなんて、大学院で学んできた人がやるべきことではない」

 そう考える人もいるでしょう。でも、インターン終了直後に上司が「ぜひCNNで働かないか」と言ってくれたのは、山のような資料をコピーするという作業にも嫌な顔一つせず、常に地道に前向きに取り組んだからなのだろうと今になって思います。大学院を卒業したときに一応、成績表を提出しようと試みましたが、「大学院での君の成績を知る必要はない」と言われましたから。

 CNNで働いてみて、当時の上司の考えがよく分かります。表向きにはジャーナリズムの世界は輝かしく見えますが、実際には泥臭く、長時間労働も余儀なくされる仕事です。ジャーナリストを嫌う国や場所もあります。常に物事を肯定的にとらえ、地道に努力し続ける姿勢がないと生き残れない。だからこそ当時の上司はあえて私に地味な仕事を与え続けて、仕事に対する向き合い方を見ていたのでしょう。

ルール2 失敗を認め、学び、次に生かす

――26歳で大学院を卒業し、CNNに入社。香港での4年間の深夜勤務などを経て30代前半でニュース番組のデスクに昇進するなど、着実にキャリアを高めてきました。周囲に実力を認めてもらうために日々、どんなことを心がけましたか。

 “WORK HARD”、この一言に尽きます。自分のスキルを冷静に見極めつつ、熱意を持って懸命に仕事に向き合うことが何より大事。これは性別や年齢、業種や職種に限らず皆に共通することです。

 同時に、失敗を認め、次につなげようというポジティブな姿勢を持つことが重要だと思います。誰でも間違いは必ず起こします。失敗をしたときほど素直に反省し、良かった点と悪かった点を考え、知見をすぐに次に生かし2度と繰り返さないこと。その姿勢が周囲の信頼獲得と、仕事の質を上げることにつながります。

――エレーナさんの今までの仕事人生において、最も大きな失敗と学びは?

 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が普及する前の2004年のことです。インドネシア・スマトラ沖地震で津波が起こったとき、私はCNNインターナショナルで扱うニュースなどを編成するデスクを担当していました。

 CNNは『Breaking News』と題して、24時間体制で世界のニュースを追いかけます。Breaking Newsで最も大事なのは、起こった出来事について即座に報道すること。現場の声をすぐに集めなくてはいけないとのプレッシャーもある中、私は「スマトラ沖の地震で生き残った人を知っていたら連絡してほしい」と、中国やオーストラリア、インドなど、世界各国にいる1000人以上のスタッフに一斉にメールを送りました。

 「我ながら名案だ」。メール送信直後、私はそう信じていました。これだけの人にメールをすれば、誰か見つかるだろう、と。しかしメールを送った直後、世界中の社員たちから私の振る舞いを叱責するメールが届き始めました。「友人が、知人が、行方不明になっている。そんなときに、こんなメールを一斉に流して『生存者を探せ』というのは配慮がなさすぎる」と。

 生存者をいち早く探し出すことは、どこよりも早く正確なニュースを扱うためには欠かせない仕事です。「私は正しい」。当初はそう思っていました。でも、社員の中にもさまざまな立場の人がいること、その人たちがどのような気持ちでニュースを見ているのかを想像する気持ちが、当時の私にはなかったのです。仕事を遂行することはもちろん大切だけれども、相手を慮り、痛みを分かち合おうという気持ちが欠けていたと気づかされました。