ルール3 リーダーこそ自ら進んで失敗談を話す

――その失敗は今、マネジメントをする上でどう役立っていますか?

 リーダーは組織を率いていく中で、ときにメンバーの人生に深く入り込む必要があります。その際に重要なのが、相手への配慮や共感する姿勢です。組織の一員としていい仕事をしてもらうには、まずはそれぞれの立場を分かろうとすることが大事です。

 同時に、失敗談を周囲に話し、それをどう乗り越えたのかを伝えることが、チャレンジ精神にあふれ新しいものを生み出す力になると気づきました。個人も組織も、とかく成功をおさめるためのプロセスにばかり注目しがちですが、成功への過程で人は失敗も経験しているものです。私たちはもっと失敗について語り合うべきです。

 私が生まれ育った韓国をはじめ、アジア各国を見ていて思うのですが、親は子どもを立派に育てようと小さな頃から塾に通わせ、成績優秀な子どもたちは“いい大学”を卒業し“いい会社”に入る。そうして育った人は失敗を恐れるようになります。一度失敗したらもう昇進できない。先がない。どんどん安定志向になり、新しいものを生み出そうとの意欲がそがれてしまう。それは世の中にとって危ぶまれる状況です。

 私たちは今こそ、失敗を乗り越えられる人材と、失敗を受け止める社会を作る必要があります。間違いを犯したとしても、そこから学び、次に生かせばいい。

 女性の活躍を後押しする上でも、この姿勢は非常に重要です。失敗した人にも新たなチャンスが与えられるような社会を作っていくことが、女性の自信のなさやリーダーになることを恐れる気持ちを払拭し、より活躍の場を広げることにつながります。

ルール4 「なぜ女性のあなたが?」との質問から逃げない

――安倍首相は日本の成長戦略の要の一つに「女性の活躍推進」を掲げています。しかし組織で重要なポジションを担う女性リーダーの割合はごくわずかです。

 安倍政権が女性の活躍の重要性を認識したということは、非常に大きなターニングポイントになったと思います。しかし、トップダウンだけではダメです。社会に深く根付いたジェンダーバイアスは、一国の首相や政府の方針が変わったからといって、そう簡単に拭い去ることはできません。企業や自治体、家族も一緒になって社会を変えていかなくてはいけないのです。女性たちの精神的支えとなるメンターの存在も、女性が活躍する上で欠かせない要素の一つでしょう。

 同時に女性リーダーたちは、周囲の人が持つバイアスを取り除くためにも自分のキャリアや実力、存在価値をしっかりアピールすることが大切だと思います。

 36歳でアジア太平洋地域全体を統括することになってから、組織の代表としてさまざまなエリアに行き、社外のさまざまな考えの人たちと接してきました。会議の席では私以外の参加者はほぼ全員男性で、年齢は若くても40代。なかには60代の人もいるわけです。その中に若い女性が一人で入っていく。ある程度、バイアスがかかった目で見られるのはやむを得ません。

 そんなとき、どうするか。私は男性中心の会議に参加するときほど、自分が組織の代表としてここに来ていることをはっきり伝えつつ、冷静に仕事面で自分ができることを見せ、少しずつ相手のバイアスを外していきました。

 「CNNはなぜ、君のような若い女性をこの立場に置いているのか」
 「どうやって君はこのポジションを手に入れたのか」

 相手との距離が近付くにつれて、こう単刀直入に聞かれることもあります。このような質問は相手の意識を変えるチャンスです。組織の考えや自分自身について、きちんと丁寧に伝える。そうすることが最終的に、相手のバイアスを外すきっかけの一つになるのです。

文/瀬戸久美子 写真/関根明生