トライアスロンへの取り組みが開くもの

――トライアスロンは魅力的なスポーツなんだなと思いました。泳いで、走って、と切り替えながら、最後に自分だけの達成感があるのですね。

道端: 例えば自転車は、それだけで意外と楽しかったりするんですよ。遠くまで自分の力で行けて。ランニングだったら40kmなんて、大会のときくらいしか自分で移動しないじゃないですか。でも自転車なら50kmでも100kmでも、女の子でも行けるんですよ。山に行ったり、景色のいい所に行ったり、自分の力だけでも自転車という道具を使えば行けるというのが、クルマにはない面白いところです。だからトライアスロンを始めると、速さ関係なく、みんな自転車好きになっていきますね。気持ちいいんですよね。

――自転車といえば、ツール・ド・東北の広報大使も続けられてますね。

道端: はい、「ツール・ド・東北」は河北新報社という宮城県の新聞社と Yahoo!が始めた復興支援イベントで、三陸海岸を中心にしたコースをタイムや順位関係なく自転車で走るんです。参加費を復興支援に役立ててもらいながら、参加者さん自身にも、コース上の震災の傷跡や復興の過程を直接見てもらおう、SNSとかでも広めてもらおう、といった目的です。途中のエイドステーションでは、それぞれの地元の方がいろんな海の幸、山の幸を出してくれます。イベントが始まった2013年にはまだ地元農産物の風評被害もあったから、まずは食べていただこう、というのもありました。

 イベントの立ち上げ時からずっと、私はボランティアとして広報大使を務めています。震災の後、現地に行ってボランティア活動をされていた方がたくさんいらっしゃったじゃないですか。私は募金はしましたが、現地にボランティア活動で出向いたことはなくて。でも、お声掛けいただいて、こんなふうに自転車を通じて発信する役割なら、私にもできると思いました。

 ちょうどトライアスロンのためにロードバイクに乗り始めて半年くらいの時期で、記者発表がありました(2013年6月)。私、広報大使の立場だからと思い、「(当時)一番長い160kmに挑戦します!」と言ったんです。

ツール・ド・東北の広報大使なのだから、「160kmに挑戦します!」と決めました (画像提供:道端カレンさん)
ツール・ド・東北の広報大使なのだから、「160kmに挑戦します!」と決めました (画像提供:道端カレンさん)

――半年でいきなり160km! すごいチャレンジ精神です。

道端: 全然すごくないです、それくらい皆さん乗られてます(笑)。私は普段トライアスロンは短い距離(51.5km、そのうち自転車は40km)専門で、長い距離は練習でも乗ったことがなかったので、自分の中では挑戦だったんですね。

 行ってみたら、エイドステーションも沿道の応援も、地元の人たちが温かいんです。2013年はまだ震災のショックが残っていましたが、皆さんの明るさが印象的でした。その土地の空気感が分かるのが自転車のよさですね。仕事などで行ってもロケ地の一点しか分からない。クルマで通過したのでは速過ぎて見えないものも、自転車のスピードならじんわり伝わってくる。行き先だけじゃなくて、そのプロセスを楽しめるんです。

 2年目は気仙沼まで往復する220kmの最長コースができたので、220kmに挑戦させていただきました。毎年コースが新しくなっているので、新しくできたコースを中心に走っています。今年9月は途中で船に乗り、松島湾の島々を眺めながらクルージングを楽しむコースを選びました。10年続ける予定のイベントなので、2022年まで参加させていただきたいです。

――最後に、カレンさんはモデルのお仕事で成功されて、子育ても一番手のかかる時期を過ぎて、多くの女性が求めるものを十分に達成してきたようにも見えます。それでもトライアスロンでの達成を追求されている。トライアスロンにしかないものとはなんでしょう。

道端: なんでしょう? トライアスロンにしかないもの……。やればやっただけの結果がついてくるということ、練習した成果が結果になって出てくれるのが楽しいのかなと思います。

 モデルという職業は、ファッション業界で流行を追っていくので、トライアスロンと違っていくら頑張っても時代に左右されるところがあるんですね。その波のはざまで辞めてしまう人も少なくないです。私はこのお仕事が好きなので、ずっと続けられているのかな、と思っています。

 あと、お子さんがいる方は皆さん思われるでしょうけど、「この子たちのために頑張ろう」と思えるんですね。頑張ればできることも多いですから。

 その子育てにしても、子どもの成長が親にとっての結果と考える方もいるかもしれませんが、結局は子どもには子どもにとっての道がありますしね。

 でもスポーツなら、自分の結果がすべてです。オリンピックがあって、一番強い人がいる。明白なことです。それはプロ選手でなくても同じで、時代や周りの環境に左右されずに、自分自身がやってきたことの結果が出る。それは楽しいし、そこが私は好きなんだと思います。

 あと、モデルとして本当に長く続けられるのは、自分だけの個性をつくれた人、というのはあります。この点でいえば、私はトライアスロンのおかげで健康やスポーツなど、お仕事の範囲が広がっていて、好きでやっている趣味が仕事にもつながっていくことはありがたいことです。

 仕事や家庭は、世の中の役割としてこなしていくものですよね。トライアスロンは、それらとは別のところで、自分だけの結果を目に見える形で出していけるということでしょうか。だから大人たちがトライアスロンとか他のホビーとかに、真剣に取り組むのかなと思います。

道端カレン
1979年6月26日、アルゼンチン生まれの福井県育ち。父親がアルゼンチン国籍を持つスペイン人とイタリア人のハーフ、母親が日本人。道端3姉妹の長女で、中学2年と小学5年の二人の息子の母。15歳でモデルとしてデビューし、雑誌や広告、テレビ出演など幅広く活躍中。
食と健康に造詣が深く、ジュニアアスリートフードマイスター、ジュニア野菜ソムリエ、食生活アドバイザーなど多くの資格を取得。近年はトライアスロンに挑戦しており、2016年は長崎西海トライアスロンと中土佐タッチエコトライアスロンで、2017年は館山わかしおトライアスロンと東扇島トライアスロンで女子総合優勝を果たしている。


文/八田益之 写真/稲垣純也

第1回 トライアスロンで急成長―道端カレンのマルチな人生
第2回 「すべては小さなステップの先にしかない」
第3回 入院・手術を越えて見えてきたもの(この記事)