乙女心をつかむ恋愛ゲームが人気を博して注目を集める「ボルテージ」を夫婦で創業し、副会長を務める東奈々子さん。子会社設立を目的とした3年間に渡る米国生活から、この度帰国しました。創業当初から「女性が働きやすい職場」を目指して東さんが情熱を傾けてきたこのテーマは、女性の社会進出が進んだ昨今、日本全体の課題としてメディアでも数多く取り上げられています。ライフイベント前の女性が多い会社の経営者の悩みや思い、女性活用やワークライフバランスを課題としたこれからの時代の「働き方」について、今後の少子化ジャーナリストの白河桃子さんが聞きました。女性が「普通に」長く働ける会社作りは実現可能?に続く2回目です。

求められる家事も過剰品質の日本

白河さん(以下、敬称略) もう一つ長時間労働と関連して、最近よく言われるのが「過剰品質」です。霞が関の働き方改革の研究会に参加しているのですが、省庁のやり方がまさに過剰品質。政府の会議に出席すると、こんなに必要なのかと思うほど大量の資料を渡されます。しかもいまだに紙文化なので、1文字違っただけで、全部印刷し直すみたいなことを年中やっている。

東さん(以下、敬称略) 日本人は100点ではなく、110点、120点を目指しますからね。

白河 民間でも「社内向けの書類づくりに時間をかけるな」「報告会議は短くしろ」と、過剰品質を意識した動きが出始めています。

 でも、期限内にできるベストエフォート(最善努力)でよしとするのがいいのか。それが完璧まで仕事をする日本人の良さを消してしまうことになりやしないか、とも思います。米国人は原則ベストエフォート型ですから、一緒に仕事をするとこの考え方のギャップは痛感しました。

白河 もちろん100点以上を追求しないといけないものもあると私は思います。でも売り上げや生産性につながらないものにまで適用するのはどうか。

 そうですね。シリコンバレーは無駄に対するシビアさがありますね。100点で無駄があるより、80点、もっというと60点でも、効率的にやってその分スピードを速くするほうが価値がある。これは勉強になりました。

白河 経産省が毎年行っているダイバーシティ経営企業100選というのがあるのですが、そこで大手企業トップが自社のダイバーシティの取り組みについて、10数枚の美しいパワーポイントを使ってプレゼンテーションをしました。そうしたら一橋大学のクリスティーナ・アメージャン教授が「そんなにたくさんのパワーポイントを作っているから、あなたの会社は長時間労働なんですよ」って(笑)

 それは、すごい(笑)。確かに米国人女性は、家事も育児も早くて便利なものがあれば、どんどんアウトソーシングしますからね。他人に任せることをいとわない。私が米国に行って感じたのは、米国人女性が活躍できるのは夕ご飯がソーセージですむからだと。これは声を大にして言いたい。

(C)PIXTA
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白河 そうですよね。日本の女性が一番家事について手数が多いそうですよ。

 アメリカンドックとゆで卵とチーズで、夕ご飯がOKなんですから。

白河 お弁当だって、サンドイッチでいいですものね。フランス人女性だって、お惣菜のおいしそうなものがたくさん売っているし、普段はシンプルな食卓ですよ。

 ピザが一番象徴的かもしれません。普通の夕食です。お弁当はチップスだけもありです。体に良いかどうかは置いておいて。

白河 日本人は、家庭においても過剰品質なのかもしれませんね。

 自分でなんでもきちんとやらないと、後ろめたさを感じてしまう。そこが日本人らしい生真面目さでもあるのですが、どこかでその壁を破って”いい加減さ“を身につけないとワークライフバランスの実践は行き詰ってしまうのではと感じています。