仕事に縛られない“シリコンバレー流働き方”

 この3年ほどサンフランシスコの子会社の立ち上げのため、家族で米国に渡りどっぷりと浸かっていました。この間、日本では働き方に関する新しい動きがいろいろと出てきたようですね。

白河 そうですね。働き方改革を進めている企業が主に取り組んでいるのは「労働時間のコントロール」と、働く場所をオフィスに限定しない「リモートワーク」です。リモートワークの取り組みについてはどうですか?

 残念ながらボルテージでの制度化はまだできていません。私自身は役員で日米のやり取りも多いので、自宅の風呂場にこもってスカイプで会議に参加したりするのは日常茶飯事ですが、会社制度としては今後の課題です。性善説でいくのか、性悪説でいくのか。ルールにしようとすると難しい。社員それぞれに事情があって一筋縄でいかないですし。

白河 でもシリコンバレーだと、リモートワークは当たり前だったりしませんか?

 おっしゃる通りで、平日あちこちのカフェでみなノートPCを広げて仕事をしています。

白河 やはりそうなんですね。

 米国の労働体系はエグゼンプトとノンエグゼンプトの2タイプあって、エグゼンプトは自ら時間管理を行い残業代はつきません。ノンエグゼンプトは労働時間をもとに賃金が支払われ、残業代もつきます。Salary(給与)とWage(賃金)の違いです。私たちがサンフランシスコに渡った当初は、日本式のやり方でノンエグゼンプトの雇用形態にした。ところが、時間ではなくゴールをきちんと設定すればパフォーマンスを出すためにしっかり働いてくれることが分かってきたんです。さらに人材採用時に同じ職種でもノンエグゼンプトだと敬遠されることが多い。

白河 社員からも要望が出ましたか?

 はい。シリコンバレーのカルチャーとしては当然なんですよね。それで、1年ほど前にほとんどの社員をエグゼンプトに変えました。オフィスのコアタイムは決めましたが。

白河 給与と賃金、時間、ゴールとモチベーションの関係など、興味深いですね。

 彼らにはオフィスに長時間いればいいという考えはありません。朝も日本に比べ早く始動しますし。その代わり「パフォーマンスは出さないとまずい」という考えがしっかりベースにある。リモートワークは“制度”というより“マインド”によって成り立っているんです。

白河 では3年ぶりに日本に帰国して、本社でもこれから大改革を?

 必要があり、結果として組織でのパフォーマンスが上がるということがわかれば導入していくべきと考えています。先ほども言いましたように、制度は重要ですがマインドも変えていかないと、すぐには難しい気がしています。日本は「会社にいれば仕事をしている」という風潮がまだ強いですからね。

白河 リクルートホールディングスのグループ3社が今年からリモートワークを導入しています。全従業員が対象で、オフィスも固定席のないフリーアドレスにしました。

 営業編集系の仕事だとフリーアドレスは導入しやすいかもしれませんね。

白河 それで、リクルートはもともとすごい長時間労働の会社なので、社員は家で死ぬほど働いてしまうのではないかと当初私は心配していました。ところが話を聞いてみると、例えば会社で夜8時だと「まだ8時」という感覚で、「ちょっとご飯食べて、また仕事しよう」というノリだったのに対し、家で夜の8時まで働くと「集中するので疲れてしまい、それ以上できない」って。

 そうですね、集中するとそんなに長くは働けません。

白河 マイクロソフトでも、リモートワークのシステムは整っていたのに文化が障壁になって進まなかった時期がありました。ところが3・11の大地震が起きたときに、樋口泰行社長(当時)が1週間の出社停止にしてみた。世界のどこにいてもいい。リモートで仕事をしてくださいと。体験してみると「これはいい」ということになり、一気に導入が進んだといいます。

 トライアルとして強制的に取り入れて、定着させていくことが大事なのかもしれませんね。

明日に続く。

<プロフィール>
東 奈々子
取締役副会長・ファウンダー
Voltage Entertainment USA, Inc. CO
津田塾大学卒業後、総合職として博報堂に入社。2000年パートナー津谷の起業に伴いボルテージへ参画、副社長に。ボルテージ東証一部上場を経て、13年から米国進出のため、3人の子どもと共にサンフランシスコへ。16年3月に帰国

白河 桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学卒業。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。1億総活躍会議民間議員。著書に『「専業主夫」になりたい男たち』『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)、『女子と就活』(中公新書ラクレ)など

文/白河桃子