なぜ広告代理店は長時間労働になる?
おかざき:広告業界がなぜ深夜まで労働するかって、クライアントに提案した案が覆って「ここをこうしてほしい」という変更のリクエストが返ってくるのが夕方6時とかだからなんですよ。客先(クライアント側)の担当者が、午前中はメールチェックとか会議とか外回りとかで、広告代理店からの提案をチェックするのが昼食後の午後2時。そこで「あれ、これは社内で問題があるんじゃないか」なんて社内で会議をするのが午後4時、結論が出てこちらへ回してくるのが午後6時なんです(笑)。
中川:それなのに、客先からこちらへ返事が返ってくるまで5営業日かかることはお客様のことを考えると当然、なんてのもザラですよね。
――今注目されている働き方改革にギアが入ったのは、やはり昨年末に話題となった電通の過労死事件がきっかけだろうと思います。でも「夜も昼も関係なく働いている『あの』電通が午後10時以降消灯だなんて、本当なの?」とすぐには信じられないくらいです。そもそも広告代理店には、なぜ長時間労働になりがちな土壌があるのでしょうか。
おかざき:制作の人間にとっては、自分のアイデアは頭の中にしかないから、ずっと「本当にそれでいいのか?」と不安なんです。そんなとき、時間をかけるのが一番手っ取り早くて。自分の作ったものには自分が納得して腹が座っていなければいけませんが、クライアントからの戻しで何度もやり直しをしていれば、やりたいことはし尽くしてしまう。でもとにかく「時間をかけたから」というのがあれば、自分を納得させられるんですね。
――物理的な時間の長さ……質より量で自分を納得させると。
おかざき:でも本当のことを言うと、ぎりぎりまで粘って時間をかけたからといって結果がいいものになるわけではないんですけれどね。逆に、とある有名漫画家さんがおっしゃっていたんですが、「自分はネーム(大まかにコマ割りを作る作業)がとても速い。時間をたっぷりかけて描いたら途端に読者受けが悪くなるんだ」って。この辺の勘所は人それぞれ経験で分かってくるものなのでしょうけれど。成功体験のないうちは、時間をかけるということにすがりがちになりますよね。
中川:「サプリ」の作中にもありましたけれど、A案・B案・C案と三つ作ってプレゼンに持っていくとか、社内競合させるというのはよくありましたね。