パリでテロが起こった日

 さらに私は、誰に頼まれるでもなく自らの意志でパリの開発者にも会いに行きました。Pepperを作っている、当時のアルデバラン(現在:Softbank Robotics Europe)という会社です。

 アルデバランの開発者が何を考えてPepperを作り出したのか知りたかった。そして、直接開発者たちに肝付町のお年寄りたちと検証した結果を見せたかったのです。

 Pepperの開発現場と試験場に行って、現場の人たちと議論をしました。

 フランスの開発者たちはとてもモチベーション高く仕事をしているのに、自分たちが作ったPepperが社会でどのように使われているか知る機会がなかなかないと言っていました。肝付町で行ったPepperの検証が、認知症に効果があるというシーンの動画を見せた時、開発担当の女性が満面の笑みで「これだ! ここには、私達がしたかったことがそのまま示されています」と叫びました。

 パリではなかなかそのような機会がなく、隣国のベルギーの施設なら、同じような検証をしているのだということも教えてくれました。

 なぜ日本人がコミュニケーションロボットを受け入れられるのか、視察後のカフェの場でも延々と議論を続けました。

 このグループでの仮説ではありますが、ロボットというものは、アメリカでは武器や殺戮のための存在、例えばターミネーターのようなイメージが強い。ヨーロッパでは、助けもするが、人の仕事を奪うという移民のようなイメージ。

 一方、日本では、人型ロボットは一緒に暮らせる存在として比較的簡単に受け入れられる。それはおそらく、鉄腕アトムやドラえもんといったアニメの世界からのロボットに対する印象、さらにさかのぼって、たくさんの神が世の中に存在するといった社会観・宗教観からの影響が大きいのではないか……という話題にまで広がりました。

 そしてちょうどその議論をしているときに、パリでテロが起きました。2015年の11月です。このとき本当に大変な思いをしたんですが、「世界を壊そうとする人もいれば、新しいものを生み出そうとする人もいる」と感じた瞬間でした。

 このテロの日は、私の人生のなかで忘れられない日になりました。

(後編に続きます)

文/梶塚美帆 写真/竹井俊晴

プロフィール
奥田浩美
奥田浩美(おくだ・ひろみ)
インド国立ボンベイ大学(現州立ムンバイ大学)大学院社会福祉課程修了後、1989年に国際会議の企画運営会社に入社。1991年、ITに特化したイベントサポート事業を設立。2001年にウィズグループ、2013年にたからのやまを設立。2014年より、情報処理推進機構(IPA)の未踏IT人材発掘・育成事業の審査委員を務め、若い世代の新たなチャレンジを支援している。これまでに携わったITイベントの数は300以上。数億円規模のイベントをいくつも成功に導いている。著書に『会社を辞めないという選択 会社員として戦略的に生きていく』(日経BP社)、『人生は見切り発車でうまくいく』(総合法令出版)、『ワクワクすることだけ、やればいい!』(PHP研究所)がある。