――「何かしたいけれど、自分にできる貢献が何なのか分からない」という人はどうすればいいでしょうか。

酒井 次世代を作るとか、社会のために役に立つとか、そんな大きなことじゃなくていいと思うんです。ゴミを拾うとか、おいしい料理を作るとか、小さなことで自分の周りの人を喜ばせることから始めるとよいのでは。大切な人や周りの人に気分よく過ごしてもらうことで、次第に自分のなかで満足感が広がっていくんじゃないでしょうか。まずは半径3メートルくらいの人のことを考えられればいいと思います。

――この先、子どもを持たない女性が安心して老後を過ごすためには、どんな力を磨き、どういった準備をしておくべきでしょうか。

酒井 まずはやっぱりお金。子育てをしていない分、確実に浮くお金はあるわけですが、それを旅行や買い物などでつい浪費しがちです。老後のことを考えて、毎月コツコツお金をためておくことは大事かと思います。

 コミュニティーをつくって、同じ立場の人と協力体制をとっておくことも必要。私の場合、子どものいない同世代の友人たちとは「なるべく近くに住みたいね」と話していて、実際に同じ区に住んでいたりします。皆で集まってピラティスをすることも。近所づきあいが希薄な世の中ですが、ご近所さんともなるべく交流するようにして、リンゴがいっぱい届いたらおすそ分けしたり、ゴミの係を引き受けてみたり。「ここに中年の子ナシ女性が住んでいます」と分かってもらうことで、災害時の不安も和らぎます。「経済力、情報収集力、コミュニケーション力」を持っているかどうかが重要になってくるでしょうね。

――孤独な老後を避けるためにも、友人同士や地域のコミュニティーなど「横のつながり」を持っておくことが大事ですね。

酒井 結局、どんな立場であっても不安やリスクはあるんです。『負け犬の遠吠え』の反響で意外に多かったのは、「結婚しているけれど子どものいない私は、勝ち犬・負け犬のどちらになるのですか?」という切なる声でした。独身子ナシ女性たちはそれなりにコミュニティーがあるし、開き直って楽しんだりしているけれど、既婚子ナシ女性はママトークにも参加できないし、周囲からいろいろ言われやすく、居場所がなくて辛いんだと知りました。

 ママたちだって、産んだら産んだで新たな悩みが出てくるんです。子どもが1人だけというのはヒエラルキーの一番下で、2人産まないと本当のプレッシャーからは解放されないとも聞きました。さらに、2人以上でも子どもの性別によってヒエラルキーが分かれるなど、子持ちの世界も微妙なグラデーションがあります。そうした点では、子ナシ同士はシンプルで比較的平等だから、気持ち的にはラクなのかなと。

――立場が違えば悩みも違うし、抱えるリスクも違う。得られなかったものが良く見えてしまうのは、人間のさがかもしれません。一歩引いて視野を広く持つことで見えてくるものもありますね。

酒井 子育てをしていない間に、人として積んだ経験はたくさんあるはずです。自信を持って、けれども謙虚に生きていければいいですよね。

文/西尾英子 写真/稲垣純也


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