平凡な43歳独身OL節子の人生が、英会話教室のアメリカ人教師との出会いから大きく変わっていく――。誰もが思わず身につまされそうな物語が描かれる映画「オー・ルーシー!」が公開中だ。配役には寺島しのぶ、ジョシュ・ハートネット、役所広司、南果歩、忽那汐里と名だたる俳優がずらりと並ぶ。本作が初の長編監督作となる平柳敦子さんに「オー・ルーシー!」の舞台裏について伺った。

一度作った短編映画を長編映画にリメーク

――「オー・ルーシー!」はもともと、桃井かおりさん主演の短編を改めて長編映画として発展させた作品です。長編は短編とどのように変えようと思ったのでしょうか。(短編については、第1回「米国で映画監督として成功する!」までの道のり)参照

 桃井さんに演じていただいた短編は節子が55歳という設定でした。長編では、節子の持つもっとダークな部分に踏み込んで、「仮面」をはずして自分自身を探す旅を追求しようと思いました。そうした面を描き出すには40代のほうが現実的だと思い、設定を43歳にしました。

 映画では、人はみんな弱いし愚かだということや人間の持つ二面性を描きたいと思いました。一方で、人は自分に正直で、素の自分になれることが幸せなことなんじゃないか。そして、素のままの自分を受け入れてくれる人を見つけるのが一番幸せじゃないか、との思いも込めました。でも、言葉ではよく説明できないですね。このようなインタビューで質問され答えなくてはいけないので、虚構の部分が多いような気もします(笑)。だから私は映画を撮るんだと思います。作品で感じてくださいとしか言えないですね。

――「オー・ルーシー!」には、生徒にハグをさせるなど独特の教授法で英語を教える教師ジョンが出てきます。

 あれは、自分自身の体験がベースになっています。節子は発音矯正のために口の中にピンポン玉を入れられますが、私もワインのコルクを入れられたこともありますし、「アメリカ人のようにしゃべってみて」とアメリカのアクセント矯正の先生に言われたこともあります。それで、わざと誇張してしゃべってみたら、なるほど、こうするとアメリカ人っぽくなるなぁと。口を大きく開くようになって、映画で描いたように「ジョン」という名前も、「ジョーン」みたいに母音を長く発音するようになるんです。

 日本語って口を閉じたまま話すようなところがありますよね。誇張してしゃべると、発音が変わるだけじゃなくて物腰も変わってきます。オープンになるんです。そういう体験が組み込まれています。

――映画に登場する元カラオケ店を利用した英会話教室は、実際には日本にないようなアンダーグラウンドな施設だと思うのですが、どのような意図があったのでしょう。

 まず、明らかに怪しい「インチキ英会話教室」を描きたかったことがあります。日本では英語を話せる外国人であれば、英会話教師になれますよね。また、ジョンが提供している「授業」は「風俗」に近い気がしたんです。

 アメリカのように心理カウンセリングやセラピーなどが一般的ではない日本には、不思議でアングラな場所がたくさんあると思います。メイド喫茶やホストクラブなど、提供しているものはジョンと同じだと思うんです。それをジョンは知りながら、「英会話教師」をしている。もちろん、映画に出てくる英会話教室は私が作り上げた架空の場所ですが、あってもおかしくないと思います(笑)。この映画を作った後に、「日本に『添い寝カフェ』(女性が添い寝をしてくれる店)があるのを知っている?」と言われました。事実は小説より奇なりと言いますが、まさにそうだと思いました。