アメリカでは、現在、セクハラや性暴力を受けた女性が声を上げて社会に変化をもたらそうとする「#MeToo」の運動が大きなうねりを見せています。日本ではこの「#MeToo」運動の盛り上がりはいまひとつといわれていますが、2015年に受けた自らの性暴力の体験をつづった本を17年10月に出版したジャーナリストの伊藤詩織さんは、「性暴力のない社会」実現に向けて活動を続けています。3月16日には国連本部で開催された国連女性の地位委員会イベントに参加。それに先立ち開催されたニューヨークJAAビジネスウーマンの会で、在ニューヨーク日本人を前に国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ事務局長伊藤和子弁護士のゲストスピーカーとして講演しました。米ニューヨーク在住のジャーナリスト・羽山祐子さんによる講演内容のリポートと、日経ウーマンオンライン単独のインタビューをお届けします。

「#MeToo」から「#WeToo」へ

ニューヨークJAAビジネスウーマンの会に登壇した伊藤さん(右)
ニューヨークJAAビジネスウーマンの会に登壇した伊藤さん(右)

 「今、こうしてアメリカで多くの人の前でお話ししていることが、信じられません。1年前は、孤独に悩み、私の小さな声は届かなくても仕方のないことなのかと思い悩んでいましたから」と、これまでの厳しい道のりを講演で振り返り、語った詩織さん。

 「明るく、強い女性」という印象を与える詩織さんですが、「実は私は家ではよく泣くし、決して強い女性ではありません。正直、性暴力は、とても分かりづらくて、なかなか助けてと言い出せなかったのです。でも、黙っていたら自分のかわいい妹や自分の大切な人に同じことが起きるかもしれないという思いに突き動かされました」と言います。ちょうど、国会に性犯罪に関する刑法の110年ぶりの改正案が提出される時期。この機会を逃したら今後、またずっと改正はないかもしれないと、詩織さんは大きな不安を抱えながらもこの事件を公にすることを決意。そして、17年に司法記者クラブで記者会見を開き、社会に実名を明らかにして告発しました。アメリカのように幼少から人権に対する意識を養うことのない日本社会での彼女の告発は、「売名行為」などひどいバッシングを受けたとのことです。

「でも、これを契機に、ハラスメントや性暴力の経験を持って悩み、孤独だった人がたくさんいたことに気付きました。日本では長い間、このような話はタブー視されてきました。公になると友達や家族が批判のターゲットになったり、外に出られなくなったり、仕事を失ったり、生きる場を失ったりするかもしれないのです。こんな状況の中で、『#MeToo』とはなかなか言えないのです。それならば、『#WeToo』ではどうだろうかというプロジェクトが、3月3日に立ち上がりました」

 この1年でうれしいほど日本の社会に変化が起きていると目を輝かす詩織さん。しかし、まだ変わらないこともあり、「性犯罪に関する刑法は、改正により罰則の厳格化が図られましたが、それでも、性交渉の合意年齢は13歳(※注1、※注2)です。このようなことが日本の性教育では語られていません」とこれからの課題を指摘しました。

 「法律の改正のみならず、日本人一人一人のマインドセットから変わらないといけないと思っています。本当に今のままでいいのか、想像力を持って、自分のできることは何かをみんなで考えていってほしいと思っています」と、詩織さんは講演会でのスピーチを締めくくりました。

※注1:アメリカでは州によって異なり、16歳から18歳が多い
※注2:性交渉の合意年齢は日本の刑法では13歳だが、各都道府県が定める青少年保護育成条例によって18歳未満との性行為は処罰の対象となる