わが道を往く生き方は母から受け継いだもの

 十分な成果を得られたフランス取材だったが、書籍化は前提にしていなかった。

 「ただ移民・難民の問題を自分の目で確かめたかっただけなんです。取材にかかる費用は別のことをして稼げばいいわ、と思っていました(笑)。結果的に1冊の本にまとめることができて感謝しています」

 増田さんが自分の思う道を突き進むようになったのには、母の存在が大きいそうだ。増田さんの母は離婚・再婚をするなど自分に正直に生きながらも、他者への思いやりを忘れない人だった。

 「小学生の頃、シングルマザーの家庭の子がいつも遅刻をしてきたんですね。それを同級生とからかうと、母は『あの子はお母さんの手伝いをしているから、遅刻してくるの。からかうよりも助けてあげるべきよ』と怒られました」

 増田さん自身も両親の離婚、再婚などを子どもの頃に経験しているが、「そんなことで他の人と違うからなどと自分を否定していたら生きていられなかった」という。

 「人と違う自分は何も恥ずかしいことはない、人と比べない、という考え方は母から受け継いだものだと思います。今の若い人たちは他人と比べては落ち込んでしまいがち。自分は自分でいいんだ、と思えると心が楽になりますよ」

 増田さんは今まで長く働いてきた中で、高校教師とテレビ・ラジオのリポーター、出版社勤務の掛け持ちという激務、パワハラ・セクハラによる退社、パニック障害や心肥大、結核などの病気も経験している。辛い時期も自分を腐らせることなく、ただただ目前の仕事に打ち込んできたから今があるのだと笑う。

 過去の困難をさらりと語る増田さんの笑顔は、とても美しい。

 「笑顔は大事ですね。自分が明るく、楽しい気持ちでいないと周囲も幸せにはできない。傷ついた難民の少年たちも、こちらから笑いかけると笑顔を見せてくれました。世界中どこに行っても自分から笑いかければ、多くの人は笑顔を返してくれますよ

 とびきりの笑顔とともに、真実を求める増田さんの取材はこれからも続いていく。

文/三浦香代子 写真/鈴木愛子

増田ユリヤ(ますだ・ゆりや)

ジャーナリスト。1964年生まれ。国学院大学卒業。27年に渡り、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務め、世界中の現場を幅広く取材・執筆。日本テレビ『世界一受けたい授業』やテレビ朝日『ワイド! スクランブル』などでも活躍。日経ウーマンでは、池上彰氏との対談「壁ドン!世界史入門」が好評連載中。著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『世界史で読み解く現代ニュース』(ポプラ新書)など。

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