仏・労働大臣、公立学校長……活躍する移民女性たち

 また、フランスでは出自によって活躍の場が限られることはない。2015年9月にはモロッコ出身の移民女性・ミリヤム・エル・コムリさん(38)がフランスの労働大臣になり、国内外で大きなニュースとなった。エル・コムリさんはパリ市の助役を務めていたときに「どんな子でも幸せになる権利がある」と移民・難民政策を推進してきた人物の一人。その経験を生かして現在も奮闘中だ。

 ほかにも増田さんが取材で出会ったなかには外資系企業で管理職となった東ドイツ出身の女性(43)、公立学校で校長となった移民2世の女性もいる。

 公立小学校で校長を務めるコートジボワールからの移民2世のマルグリッド・グバイさんは35歳という若さだ。大学で経済を専門に5年間学び、修士課程までおさめた。卒業後は経営コンサルタント会社に就職するも、30歳を目前にして「子どもの頃からの夢だった」という教師に転職。教員になって6年目で校長試験に合格し、次は学校をより良く変えるため教員養成の仕事をめざしている。マルグリッドさんは移民2世の黒人女性だが、それが就職の妨げになったことはないという。

第2子妊娠7カ月のエル・コムリさん
第2子妊娠7カ月のエル・コムリさん
35歳で校長を務めるマルグリッド・グバイさん
35歳で校長を務めるマルグリッド・グバイさん

 「就職のときに女性は男性より不利、黒人は差別的に扱われるといわれますが、マルグリットさんの場合は面接と試験で希望する経営コンサルタント会社に就職が決まりました。フランスでは実力があれば道が開けます。それにくわえてエル・コムリさんは『すべての子どもは平等』、マルグリットさんには『学校を良くしたい』という彼女たちなりの“理想と正義”を持ち、それを実現する力強さを持ち合わせているのだと思います

日本にいる私たちができること

 欧州から離れた日本では、なかなか移民や難民の問題を身近に感じにくいかもしれない。日本にいながらにしてできるサポートの第一歩は「まず知ること」だと増田さんはいう。

 日本という島国にいると、移民や難民の問題は遠い国のことだと思ってしまいがちですね。でも、まずはそういう問題があるのだと知ってほしい。そうすれば“移民や難民の人たちが犯罪を起こす”という考えが、ある意味では正しく、ある意味では正しくないとも分かります。多くの犯罪は貧困からくるものなんです

 日本は他者を受け入れて共存する、ということが苦手だが、2020年の東京オリンピックを控え、海外の人と接する機会が多くなるだろう。そのときに増田さんがいう“まず相手について知ること”という姿勢が求められるはずだ。

 「コミュニケーションを取るときは、相手の日常について知ろうとすると良いですよ。“この人は日々、どんな生活をしているのかな”と想像してみると、日本に来たなら楽しみたいだろうし、おいしいものも食べたいだろうな、と普通の友達と同じように接することができます。人間同士のつきあいですから、へんに緊張したり、構えすぎたりしなくていいんです

 世界各国の人たちと対話してきた増田さんのコミュニケーションスキルを見習いたい。

文/三浦香代子 写真/鈴木愛子

増田ユリヤ(ますだ・ゆりや)

ジャーナリスト。1964年生まれ。国学院大学卒業。27年に渡り、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務め、世界中の現場を幅広く取材・執筆。日本テレビ『世界一受けたい授業』やテレビ朝日『ワイド! スクランブル』などでも活躍。日経ウーマンでは、池上彰氏との対談「壁ドン!世界史入門」が好評連載中。著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『世界史で読み解く現代ニュース』(ポプラ新書)など。新著は『揺れる移民大国フランス』(ポプラ新書)。

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