今年2月に『揺れる移民大国フランス 難民政策と欧州の未来』(ポプラ社)を上梓した増田ユリヤさん。2015年のシャルリー・エヴド襲撃事件、パリ同時多発テロが起こる以前から移民・難民を受け入れているフランスに注目し、10年にわたる取材を続けてきました。フランスでは難民政策が整い、移民や難民だからといって活躍の場が失われることもありません。母国を追われるという厳しい状況下にあっても夢を持ち続ける人々、それを支えるフランス社会の思い、日本にいる私たちにできることを聞きました。

「三代前はみな移民」というフランス社会

 今から10年ほど前、増田さんはフィンランドで学校教育の取材を続けていた。そんなとき「フランスには毎週金曜日に無料でクスクスを食べさせてくれるカフェがある」と聞き、フランスに興味を持ったという増田さん。そのカフェがあるのはアルジェリア・モロッコからの移民やムスリムが多い、パリ18区。金曜日はイスラム教徒にとっては聖なる日。礼拝が終わった日没後、ムスリムにクスクスをふるまっていたことが、無料サービスの始まりだったようだ。

 「エッフェル塔に凱旋門、高級ブランド店が立ち並ぶパリ、といったそれまでのイメージが一気に崩れました。もっと移民について知りたい、とフランスに通うようになったのが取材の始まりでした」

 フランスには料理を無償提供するカフェだけではなく、常設の「派遣村」もある。派遣村の正式名称は「心のレストラン」というアソシエーション。日本でいうNPOやNGOの中間的な民間団体で、国からの補助金を受けて活動している。低収入で生活が困難な人たちのための支援を行い、そこには移民・難民の人々も含まれる。アソシエーションに関わるスタッフは自らも移民・難民だった人、移民2世の人、普通のフランス人などさまざまだ。

懐が深く、とても“人間らしい”国 フランス

 欧州ではドイツにつぎ、移民・難民を受け入れているフランスだが、その難民政策は驚くほど手厚い。

 たとえば、パリ市の児童養護施設はフランス人の未成年者のための施設だが、未成年の難民も受け入れている。全寮制で、フランス社会で一人でも生きていけるよう中学校卒業程度の学校教育を受けさせ、働くための最低限の資格(CAP)を取る指導をしてくれる。毎月のお小遣いや季節ごとの洋服代が与えられ、普通の少年たちと変わりなくスマホを持つこともできる。

 ここには両親を殺害され、兄弟とも生き別れたアフガニスタンの少年や、サッカー選手になることを夢見てコートジボワールからから単身パリにやってきた少年らが過ごしているという。

 「アソシエーションの取材をしているとき、ある関係者が『移民や難民の子たちは、生きたい、生きようと思って必死で逃げてきたんです。生きる努力をしている子たちが悪いことをするはずはありませんよ』といった言葉が印象的でした。

 また、フランスのある裁判官は、『不法移民の子どもを保護してフランスで育てたとしても同化できる子は6割、後足で砂をかける子が4割いる。しかし、それでも目の前にいる子を助ける。それがフランスという国だ』と。フランスは“三代さかのぼれば、みな移民”というぐらい多種多様な人種が共存していて、困っている人がいたら、まず助ける。懐が深く、とても“人間らしい”国なんです