一人でも生きていける都会と共に生きていく地方

 「都会では、極論すれば、一人でも生きていける。しかし、地方では周囲の人と何らかのコミュニケーションをとらないと、生活することは難しい。これを面倒だと思うかもしれませんが、周囲とコミュニケーションを取ることは、意外といいものです。人と関わることで、自分の居場所がちゃんと出来て、自分の存在価値が実感できますから」。

 人口の少ない地方では、一人ひとりの存在意義が大きい。

 「あなたがいると助かる、と言われたり、自分の力が周りを動かすようになったり。必要とされているという実感は、生きるためのエネルギーの源になり、その人を輝かせてくれると思います。

 一流企業で働いて高給をもらっていても、毎日深夜まで仕事をして、パートナーや子どもの顔も見られずに、体を壊してしまいそうな生活を続けていて本当に楽しいのか、見直してみるだけの価値はあります。そのために“地方通い”を試してみるのも一つだと思います」。

何事も丁寧にやること、一生懸命にやることがポリシー

 20~30代と激動のキャリアを築いてきた尾畑さん。20代、30代でやっておいて良かったことは何だろうか。

 「20代から心がけてきたのは、うまくいかないときこそ、何事も丁寧に、一生懸命やることです。“うまくやる”ことが難しくても、“丁寧に、一生懸命に”はできる。そのうちまた、人生のリズムがつかめてきます。それに気がついたのは、大きな収穫でした。

 20~30代は、いろいろな壁にぶつかりました。でも、壁というのは、前に進もうとするからこそ現れる。自分の頭の中で作り出すものだから、きっと越えられるはず。前に進もうとしている自分自身を、まずは偉いと褒めてあげて欲しいですね。

 何をするかも大事ですが、どこでやるか、誰と一緒にするのかも大事です。都会だけにゴールがあるのではありません。そう思えば、自由で可能性豊かな、オンリーワンの未来が見えてくるのではないかと思います」。

取材・文/芦部洋子、写真/稲垣純也

尾畑留美子(おばた・るみこ)
尾畑酒造専務、五代目蔵元。佐渡島の真野町(現・佐渡市)で生まれ、慶應義塾大学法学部卒業後、日本ヘラルド映画に入社。1995年、酒蔵を継ぐために佐渡島に戻る。尾畑酒造の日本酒「真野鶴」は、「全国新酒鑑評会」金賞、「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」のSAKE部門ゴールドメダルをはじめ、数々の賞を受賞。廃校で酒造りと情報発信を行う学校蔵の活動をまとめた著書『学校蔵の特別授業~佐渡から考える島国ニッポンの未来』(日経BP社)も好評。日本酒造組合中央会需要開発委員のほか、総務省地域力創造アドバイザーをはじめとする官庁関連の委員経験も豊富。
尾畑酒造ウェブサイト:http://www.obata-shuzo.com/
五代目留美子の蔵元日記ブログ:http://ameblo.jp/obatarumiko/