――日本円にして3~4兆円を使った結果、途上国の感染症被害はどのくらい減ったのでしょう。

ダイブル 2002年の設立以来、2015年6月までに、グローバルファンドの支援で1700万人の命が救われた、と我々は推計しています。

 例えば、エイズはかつて死の病と恐れられましたが、1990年代後半に、抗レトロウイルス薬が開発されて以来、感染を早めに見つけて薬を飲み続ければ、HIVに感染しても発症せず、元気に生活できるようになりました。治療が広まったおかげで年間の死亡者数は2000年代半ばの200万人をピークに減少しています。2014年の死亡者数は110万人でした。

写真/PIXTA
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――先進国が関心を持ち、対策にお金をかけることで途上国の人命が助かるようになった、ということでしょうか。

ダイブル これまでの成果を見れば、その通りです。ただ、感染症対策で大事なことは、「キー・ポピュレーション」と呼ばれる、より感染リスクが高い人々を知ることです。

 国や地域によって異なるキー・ポピュレーションを把握し、的確に治療を届けることの重要性は、アメリカ国内を見ていた時も、世界を見ている今も変わりません。ある感染症が全体的に見て減っていても、キー・ポピュレーションを取り出して見ると増えていることがあるので、注意が必要です。

 HIVの場合、具体的には、LGBT、セックスワーカー、ドラッグユーザーといった人々で、社会の差別や偏見を受けやすいため、治療が届きにくいという課題があります。

 私はもともと医師であり、科学者です。HIVウィルス学や免疫学、治療最適化に関する基礎・臨床研究を行った後、米国大統領緊急エイズ救援計画(PEPFAR)の設立を主導し、代表を務めました。米国でも、エイズ患者はアフリカ系とラテン系で患者が多かったですし、移民の女性や若い女性の感染率が高かったのです。