ヒラリーの戦略が徹底的に的外れだった理由

 選挙戦たけなわだった夏、ミシガン州を仕事で訪れたついでに、かつて働いていた地元新聞社を訪ねた。

「ヘイ、ミホ! 久しぶり! もう知ってると思うけど、ミシガン、予備戦でバーニーが勝ったんだよ~」

 街の政治経済を担当する記者のライアンがそう言った。

 そうなのだ。

 世論調査では、ヒラリーが20ポイント以上の大差でミシガン州予備戦を制するだろうという結果が出ていたのだが、フタを開けてみれば、ミシガン州民は、彼女ではなく、バーニー・サンダースを民主党の候補に選んだのだった。

 予想屋ネイト・シルバーも真っ青のこの番狂わせは、全米に「世論調査は当てにならない」という「ミシガン・ショック」となって伝わった。

 「バーニー、ホント強かったな! ま、我がミシガンもソーシャリスト(社会主義者)を候補者に選ぶ時代になったんだな。ソーシャリストの国、カナダも近いわけだし」と語るのは新聞社のフォトグラファーのランディだ。

 ちなみに、ミシガン州民はカナダ国境を越えて買い物に行く際に「さあ、社会主義国に行って、安いガソリンで俺のフォードのF150トラックを満タンにしてくるぞ!」とジョークを言うのだ。

 そういえば、デトロイト近郊から数時間クルマでドライブする中、ヒラリー支持の「H」のヤードサインをほとんど見かけなかったことに気づいた。

 途中、グランド・ラピッズの街を通り過ぎたが、住宅地にはトランプのサインはあれど、ヒラリーの「H」サインは皆無だった。

 トランプがデトロイトの「民主党から忘れ去られた黒人票」を狙うと豪語する中、そのグランド・ラピッズにヒラリーが演説しに来るらしい。ちなみに、グランド・ラピッズはデトロイトから260キロ西に位置する中堅都市だ。

 「なあ、ヒラリーの戦略、的外れだと思わないか? あの街は昔からバリバリの保守派の拠点じゃないか。あそこでいくら時間かけて演説しても、票は集められないに決まってるだろ」とランディ。

 確かにその通りだ。

 ミシガン州民なら、誰もが、グランド・ラピッズがどれだけ保守と共和党とキリスト教会の勢力の強い街か知り尽くしている。

 ミシガン大学のあるアナーバーやミシガン州立大学のあるイースト・ランシングで、「フットボールのミシガン対ミシガンステイトの試合の前日に、バーニー信者の若者相手にバーベキューパーティーでもやって、なりふり構わず票をもぎ取るべきじゃないの?」というのがライアンやランディの意見だった。

 確かにそうだ。

「結局さ、ヒラリーはミシガン州民の票は喉から手が出るほど欲しいけど、ミシガンがどんな土地かなんて、全然知らないんだよ」。

 その通りかもしれない。

 リーマンショックで倒産したGMやクライスラーに血税を注入して救う決断をしたオバマを再選したミシガン州民。

 そんなミシガン人たちが、ヒラリー政権の実現に「バーニー」でブレーキをかけNOを示した理由は、どうやらそこらへんにあるのでは、という気がしてきた。