人は人生の節目でアイデンティティーを探すもの
ニケ (キリッ)薫さん、そーとも言い切れない根拠をビシッとお願いします!
カワイ 人間にはアイデンティティー、つまり、自己の存在証明、自分とは何者であるかの自己定義、あるいは自分自身は社会の中でこうして生きているんだという実感である「存在意義」を探索する欲求があります。
ニケ 心理学部出身のニケの知識では、10代が人間関係に悩んだり、反抗期を迎えるのは、アイデンティティーを探索しているからで、それがいわゆる「思春期」だったと思うのですが。
カワイ あら、ニケさんって心理学部だったの?
ニケ テヘヘ、一応、そうなんですけど……試験のために覚えたこととかぜんぶ忘れちゃったんで、なんちゃって心理学部です!
カワイ (笑)でも、当たり。超基礎知識、クリアです。
ニケ ホッ。
カワイ ただ、アイデンティティーの探索は生涯を通じて行われるの。例えば、就職したとき、転職したとき、家族が増えたとき、引っ越したとき。そういった人生の節目となる場面で、人はアイデンティティーを探索する生き物なの。
ニケ ってことは?
カワイ ってことは?
ニケ ……。
カワイ 心理学部失格(苦笑)。40代になると、まるで思春期の頃のように自分探しを始め、新たなアイデンティティーを確立しようとする「思秋期」を迎えるのです。
ニケ おお! 思秋期ですね! 聞いたことあるかも。
カワイ 40代ともなれば、よほどの新しい仕事を命じられない限り、たいていの仕事はソツなくこなすことができます。その一方で、徹夜をすれば3日間は疲労が取れないといった肉体的な衰えを痛感したり、家庭では子どもの進学問題があったり、親が高齢になってケアが必要になったり。40代は仕事、肉体、家庭の節目が複雑に絡み合う時期。そういった不安に耐えるために無意識に新たなアイデンティティーを探索するの。
ニケ 確か……ニケの記憶では、心理学者のヤングは、40歳を「人生の正午」と呼んだんですよね?
カワイ ……。
ニケ あれ? 違ってました?
カワイ ヤングではなく、ユング。
ニケ キャハッ、それです! それ!
カワイ (笑)。40歳を「人生の正午」に例えたのは、深層心理の研究で有名なスイスの心理学者ユングです。
40代になると同窓会が復活する、というか、やたらと同窓会が増えるのも、自分と同じような境遇の同年代と接して、「自分だけじゃない。もう若くはないから仕方がない」と安堵したいという、深層心理が働いているの。
ニケ へ〜っ。深層心理って面白いですね。昔の友達と会うと、その時の自分に戻れるのも、安心感につながるのかもしれないですね。
カワイ その通りです。でもね、そこで終わってしまってはダメ。その次に進まないと、「過去の人間関係の中」でしか生きられない人になってしまいます。
ニケ じゃ、どうすればいいですか?
カワイ 小さなことでいいから、誰かの役に立つことをやってみるといい。後輩のため、他者のため、地域のため。何のためでもいいから、次の世代にとってよりよいものになることをやればいい。そうすると、人間的にも成熟できます。
ニケ なんか難しそうだな。薫さんって東日本大震災の後、被災地にずーっと通ってたでしょ? ああいうのって、すごいなぁって思うけど、ニケには無理。自分のことで精いっぱいだもん。
カワイ 私はたまたま被災地に通ったけど、会社の中でだっていろいろできるじゃない。1週間に1回でいいから後輩ちゃんの仕事の縁の下の力持ちになって、陰からサポートするとか?
ニケ う〜ん、そういうのもすてきですけど、そんなことしてたら後輩ちゃんに抜かれちゃいます! ニケ、そんなに仕事できないし。
カワイ 誰かの役に立つと考えると厄介だけど、誰かが喜んでくれるとちょっとうれしいでしょ? そういう快感が人を成長させるの。
ニケ う~ん……。