仕事がもたらす高揚感が「働き過ぎ」を拡大させる

カワイ そういうのもあるかもしれないけど、それって「内向き」な動機ですよね?

ニケ ん? ってことは「外向き」な動機ですか? う~ん、外向きな動機って何なんだろう?

カワイ 「いい仕事をしたい」「会社に貢献したい」「お客さんを喜ばせたい」という利他的な感情です。外向きの動機が高い人ほど、「いい仕事をするためには、私的な時間を犠牲にしてもやむを得ない」と、自分を追い込んでいきがちです。

ニケ ニケはそんなに献身的な人間じゃないですけど……。

カワイ (笑)そういうニケさんでも、目の前にやるべき仕事があって、その仕事に一生懸命になっていると自分でもびっくりするくらい自分を追い込んでいくことがある。

 例えば、新しい仕事や責任ある仕事を任されたときのことをイメージしてね。そういうときって「よし、頑張ろう!」ってモチベーションが上がりますよね。それで毎日とにかく頑張るわけです。ある意味それは自分にとってチャレンジだから「仕事の要求とプレッシャー」は高い。でもそれをやっている自分はちょっとかっこいいから、上手くやって「社会に認められたいという承認欲求」も高まる。さらには「自分の責任で頑張らなきゃ。人に迷惑を掛けたくない」という意識も高まります。この3つが複雑に絡まり合うと、高揚感がもたらされていくの。

ニケ へ? 苦痛じゃなくて高揚感?

カワイ そうです。「やるべき仕事がある」「自分が必要とされている」という心理がバックボーンになっているから、周りからは「苦痛」に見えることが高揚感になる。そして、自ら「働き過ぎ」を拡大させてしまうのです。

ニケ 高揚感がエネルギーになるってことですね!

カワイ そうです。高揚感自体は悪い感情ではなくポジティブな感情です。活力になります。でも、そのエネルギーが体力や精神力を超えると危険な状態になってしまうの。

 ニケさんがサクラちゃんに心配された時は、倒れたりすることはなかったのよね?

ニケ 大丈夫でした。お肌はボロボロになりましたけど、半年で解放されたし、ギリギリセーフ!

カワイ 31歳会社員さんのお友達は「周りから見ても危険な状態」と分かるほどだった。つまり、身も心も疲れ果ててボロボロになっていた。そのボロボロになっていること自体が、本人にとっては「すごいこと」「できる人」の証明のように思えてしまったのでしょう。

ニケ こ、怖い……。

カワイ 周りの人たちもね、31歳会社員さんのように「仕事をやめるか、少なくとも休まないと倒れちゃうよ」と言う人もいれば、「私も頑張ってるよ! お互いしんどいけど頑張ろう!」ってエールを送る人もいます。どちらも相手を思いやる優しい気持ちであることに変わりはありません。でもね、エールを送ってしまうことは高揚感をさらに高めてしまうことにもなりかねない。

ニケ (ギクッ)ニケ 、それやっちゃってるかも……。

カワイ エールを送ること?

ニケ は、はい。