「何もしない」のも生き残り戦略の一つ

カワイ 深い諦めとは、「時間」という傘を使って「時の流れに身を任そう」という対処法です。

ニケ へ~。そんな対処法があるんですか?

カワイ 私が考えました。

ニケ (ガクッ)……でも、諦めるより頑張ったほうがいいですよね?

カワイ ガンバルって、何を?

ニケ その……なんていいますか、後輩にも越されてしまったわけだし……。

カワイ 今まで頑張ってなかったのかしら?

ニケ う~ん、そういうわけではないと思うのですが……。

カワイ だったら、今まで通りでいいじゃない。「諦める」というと一般的には、受け身で弱々しく、悪いことのように理解されているけど、「諦める」とは、「あきらかに究める」ことだという解釈もあります。

ニケ あきらかに究める?

カワイ 「諦める」は仏教起源の言葉です。「諦」はサンスクリット語で「真実」を意味し、真実を悟れば、あくせくすることもなく、何が起きてもジタバタすることがない、ってこと。世の中にはどうにもならないこと、自分の価値観や常識が通じない、理解できないことがあります。そんなとき、悪あがきは得策ではありません。時間に身を任せ、「私は私」と開き直ったほうが、楽になる。

ニケ そういえば、友達の朋ちゃんが、彼が3回目の浮気をした時に「もう諦めた」って言ってました。これって深い諦めですよね? 朋ちゃんは「あれだけ話し合っても、まだ浮気しちゃう彼の行動は理解できないけど、だから別れようって気にも、不思議となれない。だったら無理に理解する必要もないかな、って思った」って。そっか、ニケ分かりました! 自分にはどうにもできないってジレンマに対峙するための傘が、「深い諦め」ってことですね?

カワイ あら、さえてるわね。その通りです。みんなね、何か起こると「何かしなきゃ」って、思いがちです。でもね、何もしないことが解決の糸口を見いだすきっかけになることは案外多い。38歳会社員さんは、しばらく「死んだふり」しとけばいいのよ。

ニケ 死んだふり? うわぁ~、今日は不思議な言葉ばかりだ~。

カワイ 以前、昆虫の専門家で「死んだふり」の権威の先生と対談したときに、「動物は生き残るために死んだふりをする」って言ってました。

ニケ へ~!

カワイ 英語で、死んだふりは「プレイ・オポッサム」といいます。カンガルーの仲間のオポッサムが死んだふりの名人。だからプレイ・オポッサム。キツネや犬ににらまれると、天を見つめてパッタリと倒れるんですって。めちゃくちゃカワイイですよね(笑)。

ニケ ニケも上司に怒られたとき、死んだふりしてます。

カワイ (笑)ニワトリも死んだふりするのよ。

ニケ マジっすか?

カワイ ニワトリは朝になると「コケコッコー」って鳴いて、自分の存在を周りに知らしめるけど、暗くなると野犬に襲われて、食べられちゃうことがあるの。野犬に捕まえられると、気絶してだらーっと死んだふりをする。犬は「あれ? これは餌じゃなかったんだ」と驚いてニワトリを離す。その途端、ニワトリはスタスタと足早に逃げていくんですって。

ニケ キャッハハ。ニワトリ、やりますね。

カワイ カエルも死んだふりをするのよ。アマガエルを捕まえて、おなかをさすると動かなくなって、気絶する。そうやって死んだふりをすると、結果的に、天敵に食べられずにすむ。脅威から身を守る対処法が、死んだふり。昆虫先生は「死にまねができる動物が生き残る」って断言してましたよ。