「大切なモノ」と「そうでないモノ」の境界線

カワイ この相談者の方が思う、「幸せな結婚」ってなんなのかしら? いい大学出て、大企業に勤めて、収入が良い人をダンナにするってこと?

ニケ や、やだっ! 私に聞かないでくださいよ! 薫さん、知ってるでしょ? 私の彼、超貧乏ってこと。ああ、でも、これって先物取引みたいなモノですから!

カワイ ……。“先物買い”でしょ。

ニケ あれ? ハハハ。

カワイ ちょっと気になるのよね。「学歴もキャリアもない女の子のほうが、私の欲しいものを手に入れていて」って書いてあるでしょ。

 学歴、キャリア、結婚、優しそうな旦那さん、子供……。彼女はすべてを手に入れたいのね。欲しいモノを手に入れれば、人は幸せになれるのかしら?

 欲しかったものを手に入れれば、もっといいものが欲しくなるのが人間です。人間の欲望なんてもんは、尽きるもんじゃない。そもそもすべてを手に入れることだけが幸せではない。

ニケ でも、欲しいものは欲しいですよ! シャネルのピアス、ファーストクラスのチケット、海外バカンスに年2回行けるお休みとお金!

カワイ 物欲ばっかりじゃない!

 シャネルを買ったら、今度はエルメスが欲しくなるわよ! それじゃいつまでたっても幸せにならない。あのね、幸せを手に入れるには、「欲しいモノ」ではなく、「大切なモノ」を見極めることが必要なの!

 「大切なモノは何か?」を見つけないとダメ。それは自分の「境界線(boundaries)」を知ることでもあります。境界線というのは、誰しもが持っている、自分の人生にとって重要であることとそうでないことの境目のことです。

 私たちは、境界線の内側にある「自分の人生にとって大切なもの」に対しては、それがそこにあることに感謝し、慈しむことができる。そして、その大切なものが、境界内にちゃんとあり、うまく回っていることで、幸福感は高まっていくの。

 境界線の範囲は、人それぞれで、ある人は政治が境界線内に入り、ある人は宗教や芸術が境界内に入り、ある人にとっては、おカネや権力というものが、境界内に存在することもある。

 人生のステージで境界が変わることもあります。その境界内にあったものを外に追いやり、外にあったものを境界内に取り込むことで、苦悩から逃れることができます。

 例えば、リタイアが迫った人が、それまでは境界内にあった“有給の仕事”というものを境界線の外に排除して、“無給の仕事(ボランティアなど)”を境界内に入れることで、リタイアした後の不安が軽減できます。ボランティアに精を出すことで、幸福感を持続させることができるの。

 今、ニケさんの大切なモノって何?

ニケ えええ~っ。ええと……、父と母、猫のルーシー、それと……。

カワイ じゃあ、「達成感」を感じる瞬間は? 「ここにいるとホッとする」って感じる場所は?

ニケ こないだ企画が通ったんです! それはものすごい達成感を感じました。あと、そうだ。私、実は趣味でお花やってるんですけど、こないだ展覧会に初めて出展して達成感もあったし、お花の仲間といるときは、仕事とか一切関係ないし、ホッとできるかな。

カワイ それが今のニケさんの境界内にあるモノです。家族と過ごす時間、猫ちゃんのお世話、企画を成功させること、お花を続けること。こういった大切なモノが自分にはあるって思うだけで、幸せだと感じない?

ニケ 確かに……。私、仕事は好きでも嫌いでもないんですね。でも、せっかく通った企画は、何がなんでも成功させたいです!そのためには猛烈社員になります!

カワイ 大切なモノは、幸せの種です。この種の存在に気づく事が幸せに近づく最初の一歩です。