村田沙耶香『コンビニ人間』

幸せかどうかなんて、他人が決められることではない

 今年7月に第155回芥川賞を受賞した『コンビニ人間』の主人公・恵子は、正社員として働いたことが一度もなく、大学時代に始めたコンビニのバイトを今も続けている30代半ばの女性。コンビニ店員としての知識や接客は一流ながら、友人や家族との関係はどこかギクシャクしています。

 実は、恵子は幼い頃から喜怒哀楽の感情に乏しく、公園で見つけた小鳥の遺体を「食べよう」と提案したり、クラスメイトのケンカを止めようと当事者同士をスコップで殴ったりするなどの事件を起こし、「普通ではない」という扱いをされてきました。そのため、周囲の人の行動を真似することで、なんとか「普通」に見えるように生きてきたのでした。ある日、恵子のバイト先に白羽という男性がやってきます。白羽との出会いにより、恵子の生活は変わって行くように見えるのですが……。

 物語のラストで恵子が下した決断に、爽快感を覚える人もいれば、怖かったと感じる人もいるでしょう。しかし、恵子が幸せかどうかは誰にも判断はできません。自分自身が選んだ生き方が例え「普通」とは少し違っていても、他人にはとやかく言えるものではない、という作者の思いが伝わってきます。

 「女性だから」「会社員だから」と、自分自身が貼ったレッテルに縛られて窮屈さを感じている人に、ぜひ読んでもらいたい小説です。

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