稲垣えみ子 「寂しい生活」

「手放す」ことで気付く幸せって?

稲垣 えみ子 「寂しい生活」
稲垣 えみ子 「寂しい生活」

 続いて紹介するのは、「アフロ記者」として注目を集めた稲垣えみ子さんの最新エッセー「寂しい生活」です。これまでの書籍でも触れてきた「『電気はないもの』として暮らす」生活を具体的につづっています。

 福島の原発事故をきっかけに、節電について考え始めた稲垣さん。帰宅しても電気はつけずに暗闇で過ごしたり、掃除機を手放してほうきやちりとりで掃除したり、冷え性なのに冬は湯たんぽと厚着で乗り切るなど、電気を極力使わない生活を送るようになります。そしてついに冷蔵庫の電源を抜くところにまで至るのですが、毎日食べ切れるか保存食にできるものだけを買う中で、あることに気付きます。

「将来(これから使うウキウキ食材)も、過去(買い置いておいた、とっておきの食材)もない日々を、私は生きている。それは確かにつまらない」「身もふたもない(人参と厚揚げしか買えない)『ちっぽけな今』を生きるしかないからだ」

 あれやこれやと将来のことを考えるのではなく、今そこにあるもの(食材)を味わい尽くすのが今を生きるということだと気付いた、とつづる稲垣さん。

 電力だけでなく、限りある資源について見つめ直すのは確かに大切なことです。でも、そこまで大きな視点ではなく、「未来のことばかり考えている自分」に気付くだけで、目の前の景色も変わってくるもの。

 真夜中に、将来に対する漠然とした不安を感じたら、目をつぶって虫の声に耳を澄ます。もしものときの買いだめをやめたら、部屋や冷蔵庫が片付けやすくなった。何かを手放した先にどんな風景が見えてくるのか。それを本書からぜひ感じ取ってください。

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