柚木麻子 「BUTTER」

誰もが気になった「あの事件」「あの女性」

柚木麻子 「BUTTER」
柚木麻子 「BUTTER」

 最後に紹介する「BUTTER」は、とある事件の容疑者と、その容疑者に興味を持った30代の女性記者の交流を中心に展開する物語です。3件の殺人容疑で逮捕された「カジマナ」こと梶井真奈子。カジマナを取り巻くゴシップや事件の真相に興味を持った週刊誌の記者・里佳は、拘置所に面会を申し込みます。なぜ男たちはカジマナに夢中になったのか。カジマナは本当に殺人を犯したのか。事件の真相に迫るべくカジマナと面会するうちに、里佳は自分の内面に抱えた問題に徐々に気付いていきます。

 書籍の公式サイトで著者本人がコメントしている通り、カジマナとその事件は数年前に世間を騒がせた「木嶋佳苗事件」をモチーフにしています。ただ、本書の面白さは事件そのものではなく、カジマナという女性の足跡をたどることで、里佳をはじめとした登場人物がこれまで目を背けていた事実に向き合っていく過程です。独身で仕事にまい進する里佳とは反対に、親友の伶子はあっさりと仕事を辞めて家庭に入ります。里佳も伶子も現状に満足しているように見えますが、それぞれに「生きづらさ」を抱えていました。タイトル通りドロドロとした感情が渦巻く物語ですが、共に30代の二人が、生きづらさを乗り越えて成長を遂げる、青春モノともいえるでしょう。

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柚木麻子 「あまからカルテット」
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 「BUTTER」にも、柚木作品の定番であるグルメ描写が満載です。「バターとしょうゆを垂らしただけのごはん」の鮮やかな描写は、思わずまねして作ってみたくなるほど。柚木作品は気になるけれど、もっと気軽に読める小説がいいという人には「あまからカルテット」がおすすめです。ヒロインは中学時代からの大親友であるアラサー4人組。ピアノ教師の咲子が花見で偶然出会った男性に恋をしたものの、名前も連絡先も聞きそびれてしまいます。唯一のヒントは「彼が握ったお稲荷さんの味」。それを聞いた3人はお稲荷さんを食べ歩いたり味の再現を試みたりして、男性の行方を捜します。友情×グルメ×ミステリーの痛快さを、ぜひ堪能してください。

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文/樋口可奈子 イメージ写真/PIXTA