忙しい毎日を送っていると、読書の時間を取るのは難しいですよね。少し長いお休みが取れたら、じっくり読書に耽って、自分を見つめ直し物ごとを深く考えてみてはどうでしょう。今回は、「女子的あかるい哲学入門」の小川仁志さんに、夏におすすめの哲学的な本を選んでいただきました。
100万回生きたねこ
佐野洋子 作・絵(講談社) 1512円(税込)
もはや古典ともいっていい佐野洋子さんの名作絵本。100万回死に、100万回生き返った不思議なねこ。前半では、輪廻のごとく繰り返されるねこのいくつかの数奇な人生が紹介され、後半では、そのねこの最後の人生がじっくりと描かれます。
ねこ好きな人も、そうでない人も、また子どもだけでなく大人も楽しめるストーリー、そして誰もが考えさせられるストーリーです。いったいこのねこは、どうして100万回も生きなければならなかったのか? いや、ねこに限らず、私たちが生き、そして死んでいくとはどういうことなのか? 不思議なねこを通して、私たち自身の人生の意味を考えさせられる深い一冊です。
大きな木
シェル・シルヴァスタイン 作/村上春樹 訳 (あすなろ書房) 1296円(税込)
村上春樹さんの新訳で話題になった名作絵本。The Giving Treeという原題のとおり、大きな木が少年の望むものを与えてくれるという物語です。少年が幼いころは木登りやリンゴを、そして大人になってくると家の材料としての枝や、船の材料としての幹を。
何かを求める者とそれを与える者。でも不思議とどちらも幸せを感じる。それはなぜなのか? いや、もしかしたら読者の中にはそこに幸せを感じることなどできない人もいるかもしれませんね。
最後に村上さんが、「物語は人の心を映す自然の鏡のようなものなのです」と書いているとおり、そこに何を感じるかは、読む人次第なのでしょう。大きな木はそれほど大きな心で、読む人すべてを受け入れてくれるのです。
りんごかもしれない
ヨシタケシンスケ 作・絵 (ブロンズ新社) 1512円(税込)
ヨシタケシンスケさんによる哲学絵本。数々の賞を受賞した話題の本です。ある日ふとテーブルの上に置かれたリンゴが気になった主人公の少年。するともうそれが本当にりんごなのか、そうではない別の物なのか、想像がどんどんふくらんでいきます。これはまさに哲学の基本だといっていいでしょう。
哲学は物事の本質を探る営みですが、そのためには普段当たり前だと思っていることを疑わなければなりません。目の前にあるのはりんごかもしれないし、そうではないかもしれないと。そうしてはじめて本当の姿や意味が見えてくるのです。でも、当たり前のものを疑うのは大変です。この絵本はそのための方法をユーモアたっぷりの素敵なイラストで教えてくれています。
ワンダー
R・J・パラシオ 作/中井はるの 訳 (ほるぷ出版) 1620円(税込)
世界中でベストセラーになっている新しい児童書です。みんなが逃げていくような顔に生まれてしまった主人公の男の子、オーガスト。顔以外はまった普通の子なのに、いや、普通以上に素晴らしい子なのに、みんな外見で判断して敬遠してしまいます。外の世界を恐れるオーガスト。でも、学校に行き始めると、不思議と彼はどんどん強くなっていきます。そして最後はみんなからスタンディング・オベーションを浴びるほどの存在に……。
人はいったいどうやって強くなっていくのか、そしてこの本のタイトルである英語wonderは何を意味しているのか? ぜひそんなところに目を向けながら読み進めてもらえればと思います。