美術鑑賞初心者のアラサーライター・小泉なつみが、素人目線で絵画を楽しむ方法を模索し、専門家に突撃インタビュー。8月22日(月)まで国立新美術館で開催されている「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」は、なんと私たちが共感できるファッション要素が満載でした。同展で展示されている作品を洋服の観点から鑑賞するポイントを専門家に聞いてきました。「絵画はちょっと…」という方の美術館デビューにもおススメ。猛暑といわれる今年の夏。暑い今こそ、「納涼美術館」はいかがですか。

一日中着替え シーン別に洋服を変える19世紀の女性たち

 西洋服飾史を研究する日本女子大学家政学部被服学科准教授の内村理奈さんによれば、ルノワール展で見られる作品のファッションに注目すれば、描かれた人の年齢や階級、そのときのシチュエーションなどが大体わかるそう。

 「例えば、全身黒でキメている《ダラス夫人》が着ているのは、乗馬服です。シルクハットを被っていて一見男性的に見えますが、ドット柄のベールがおしゃれですよね」(日本女子大学家政学部被服学科准教授の内村理奈さん/以下「」内同氏)

ピエール・オーギュスト・ルノワール
《ダラス夫人》
1868年頃 油彩/カンヴァス オルセー美術館
(C)RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 「乗馬用をはじめ、ランチ、起床時、お客さんを迎える時など、上流階級の人々はシチュエーションによって朝から晩まで何度も着替えをしていました。当時はそれがマナーであり、エチケットだったのです」

 確かに、私も雨の日はヨレヨレのスニーカーをチョイスしますが、それとはスケールが違いますね。

 「男性の洋服は燕尾服など今とあまり変化はないのですが、それは自分が黒子となり、隣に立つ女性を華やかに着飾らせることで自身の財力を示す狙いがありました。“見せびらかしの消費”といわれるこの風潮は、ジェームズ・ティソの《夜会》あるいは《舞踏会》(下)でも明らかでしょう」

ジェームズ・ティソ(1836-1902)
《夜会》あるいは《舞踏会》
1878年 油彩/カンヴァス オルセー美術館
(C)RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF

 確かに、この眩い装飾の黄色いドレスは印象に残りました。そうそう、今回の展示で素人の私でもフムフムと楽しめたのが、ルノワールと同時代に活躍したほかの画家たちの作品が並んでいるところ。「誰もが知っている画家」の作品もありました。フィンセント・ファン・ゴッホとか、パブロ・ピカソとか。ルノワールの描くタッチと全く異なる手法で描かれた当時の様子も比較できました。