ルノワールはモデルの衣装を自分で準備?

 「ルノワールも《田舎のダンス》《都会のダンス》(下)で舞踏会の様子を描いていますが、ジェームズ・ティソのそれに比べるとドレスが非常に簡素ですよね。当時、お花は舞踏会になくてはならないおしゃれのアイテムでしたが、“都会”でのダンスの場でも、一つしか付けていない。

左 《田舎のダンス》
1883年 油彩/カンヴァス オルセー美術館
(C)RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

右 《都会のダンス》
1883年 油彩/カンヴァス オルセー美術館
(C)RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

 19世紀は派手な装飾が好まれていたはずなので、もしかしたらルノワールが自前の衣装をモデルに着せて舞踏会を“演じさせて”いるのかもしれません。だからリボンなどの小物まで用意できず、結果としてシンプルなドレスになったとも考えられるのかなと…」

 巨匠自らモデルの洋服を準備するとは…。さらに内村さんは大作《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》についても考察を続けます。

《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》
1876年 油彩/カンヴァス オルセー美術館
(C)Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF

 「《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》に描かれている、あるひとりの女性が着ているドレスが、ルノワールの別の作品にも登場しているように思えるんです。ここに描かれた人々は彼の友人たちばかりですから、ルノワールは絵を作りこむために自前の衣装を貸し、彼らにモデルの協力してもらったのかもしれません」

 内村准教授が指摘した共通のドレスを着たもうひとつの作品は、今回の「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」で展示されています。ぜひ推理しながら探してみてくださいね。