「印象派の画家たちに影響を及ぼした詩人のボードレールは、絵画に現代性を求めていました。そのため最新の流行を描いた『ファッションプレート』にも興味を持っており、ルノワールもボードレールの影響でこの雑誌の面白さを感じていた可能性はありますね。

 また、ルノワールの友人で詩人のマラルメは『最新流行』というモード誌を作った人物ですし、パトロンのなかにも出版関係者がいました。さらに父は仕立屋で母はお針子でしたから、ルノワールがファッションに高い関心を持つようになったのも自然の流れだったかもしれません」

 また、内村さんは、縦に並んだリボンのドレスが印象的な『ぶらんこ』(下)と酷似したモード誌の記事も発見したとのこと。

《ぶらんこ》
1876年 油彩/カンヴァス オルセー美術館
(C)Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF

La Mode illustrée, 3 juin 1877 より/日本女子大学家政学部被服学科 所蔵
La Mode illustrée, 3 juin 1877 より/日本女子大学家政学部被服学科 所蔵

 「当時流行していたモード誌の記事に掲載されていたものです。執筆時期はルノワールの方が先なので影響のほどは定かではありませんが、同時代のファッションのトレンドをルノワールが完璧に掴んでいたことがわかります」

 当時のおしゃれに敏感な女性たちが手にする雑誌が、巨匠の作品に影響を及ぼしていたとは! しかし、だからこそルノワールの作品は時代を超えて多くの人たちに受け入れられているのではないでしょうか。

 これが、初来日したルノワールの《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》。

《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》
1876年 油彩/カンヴァス オルセー美術館
(C)Musée d’Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt / distributed by AMF

 「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」では、この《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》の中で印象的なストライプのドレスをモチーフにしたグッズも販売されていました。

 グッズ販売コーナーは女性たちで結構にぎわっていました。絵画の中から飛び出したお気に入りの洋服がモチーフとなったグッズを持ち歩くというのも、美術鑑賞の楽しみ方の一つかもしれませんね。

 次回は、この名作も含めたルノワール展に出展されている作品たちを、ファッションの視点で解説しながら紹介していきます!

文/小泉なつみ

「オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展」
国立新美術館/8月22日(月)まで/休館日は毎週火曜日(8月16日は開館)/10時~18時(金曜日と8月13日、20日は20時まで)
URL:http://renoir.exhn.jp/