慈しみ守る力

 しっかり者で面倒見のいい職場の先輩女性が長女だった、ということはありませんか?

 『とと姉ちゃん』で、長女・常子は「家族を守る」「二人の妹を嫁に出す」「家を建てる」を目標に掲げているほどしっかりものです。特に妹たちをトラブルから守るときには、空まわりしてしまうほど懸命に奮闘することも。

 父親や息子といった男性が家族を“守る力”を発揮するのは、外界から家族を守る場面。

 一方、女性の「守る」力は、男性のそれとは異なります。

 母親や娘といった女性が家族を“守る力”は、庇護すべき対象の面倒を見る、世話をする、というかたちで発揮されます。この経験によって、気遣い上手でリーダーシップに長ける “長女力”が育まれます。

 父に代わって戸主(旧民法の家長)となった常子は、戸主の務めとして、火事の現場で消防活動に参加しようとします。しかし男性のようには動くことができず、しまいには「邪魔するな、お前は所詮、女なんだよ!」と罵声を浴びせられて愕然とします。

 生前の父のように「とと」役を務められないと悩みますが、母と妹たちから「ととはとと。とと姉ちゃんはとと姉ちゃん」と言われ、彼女は「とと」そのものになろうとするのではなく「とと姉ちゃん」として家族を守ればよいのだ、と気付きます。

 父のようでなくてもよい。むしろ女性であり長女である自分だからこそ発揮できる力で、家族を守るのだ――これが、常子が“長女力”の生かし方を知った瞬間と言えるでしょう。