【質問7】自分を変えた人物は?

【回答】私と出会った全員です

 今の私をつくってくれたのは、私と出会った全員なのだと思います。離婚もそれだけ切り取ると決してプラスではありませんが、離婚したことで自分が自立できていなかったと気付けました。

 また、徳間書店で宣伝担当をされていた、久保田正幸さんは、書籍PRとしての、私の意識の根底となるものを教えてくれました。初めて徳間書店とお仕事をした時から窓口をされていた方です。

 PRを担当した「佐賀のがばいばあちゃん」(島田洋七)がヒットした際に、取材を受けた記事を見てもらった時のことは印象的です。当時の私は、書籍PRとしてできることをしていたけれど、クライアントの窓口である宣伝担当の方と編集担当者、著者さんだけしか見えていませんでした。その私に「君が見えている以上にこの本に関わっている人は多くて、書店営業や広告の担当者もいる。この本に熱い思いを持って動いている全員を忘れたらダメだよ」と丁寧に教えてくださったのです。

 もう亡くなられてしまったのですが、もしご存命なら今の私を見てすごく喜んでくださっただろうと思います。

「今の私をつくってくれたのは、私と出会った全員」と奥村さん
「今の私をつくってくれたのは、私と出会った全員」と奥村さん

【質問8】影響を受けた本や小説はありますか?

【回答】太宰治「正義と微笑」と、岡本かの子「鮨」です

 幼い頃は家族や身近な存在が価値観の軸になっていますよね。お父さんが「あいつは悪いやつだ」と言ったら悪いやつだと思ったり、「うちの家族は最高」と思っていたり。「正義と微笑」の主人公も家族が価値観の軸になっていて、高等遊民のような生活をする兄をとても尊敬しています。それが、尊敬できる学校の先生を見つけたことで、主人公の世界が広がっていくという話です。太宰治にしてはすごくすがすがしい作品ですね。

 岡本かの子の「鮨」では、お寿司屋さんの常連のおじさんと、お店の女の子が偶然店の外で鉢合わせます。そこでおじさんが、「自分は子どもの頃は食べ物を飲み込むのが苦痛だった。だけど、お母さんが庭に屋台を出して、自分の手でお鮨を握って食べさせてくれたことで、おいしさを知った」という話をするんです。

 私自身も、子どもの頃は食べることがすごく苦痛でした。おちょこ一杯のごはんを食べさせるのも大変な子どもだったそうです。学校に持っていくお弁当も、母は小さなお弁当箱に色とりどりの食材を一生懸命入れてくれていました。大人になってこの本を読んだ時に、大変なことをさせてしまっていたなと反省しましたね。

 この二作に共通するのは、自分の世界が広がっていくことを楽しめるようにしてくれる作品だということ。読んだ方には、自分の価値観や世界の上限を決めずに、柔軟になって、いろんな人に出会い、いろいろな経験をすることをためらわないでほしいですね。失敗しても、気に入らない人がいても、すべてが自分を形づくるものになります。