各界で活躍する女性に、今の自分をつくった「10のこと」を伺う本連載。今回は、アーティスト・イラストレーターの松尾たいこさんにお話を聞いています。かつては「やりたいことが分からないし、自分にも自信がなかった」と語る松尾さん。今、生き生きと活動されている背景にはどんな体験があったのでしょうか。
短大卒業後、自動車メーカーでの約10年間の勤務を経て、32歳で上京。35歳のときにイラストレーターとしてデビューした松尾たいこさん。イラストレーターになった経緯や影響を受けた人との出会いについてお話しいただいた前編に続き、後編では、自分をご機嫌に保つための工夫や、東京・軽井沢・福井での三拠点生活を送られているなかでの、時間の使い方などを伺いました。
【質問6】影響を受けた映画は?
【回答】「ヴァージン・スーサイズ」と「マグノリア」です
同じ映画を繰り返し観ることはほとんどないのですが、「ヴァージン・スーサイズ」と「マグノリア」は何度も観ています。「ヴァージン・スーサイズ」はすごく好きで、この映画を観て以降、甘い色や優しい色をどんどん使うようになりました。私の両親はとても厳しかったので、少女たちの抑圧された点にも共感するところがあったのだと思います。
「マグノリア」は映画館だけで3回見ました。内容は重たいけれど、登場人物のどこかに優しさがあるような作品が好きなんです。でも、最近何回も見たのは「ラ・ラ・ランド」。私自身が変わってきたのだと思います。実際の人生やその人の内面は分からなくても、ぱっと見て明るくて楽しい雰囲気に惹かれるようになりました。今回の個展にも、「自分の中の明るさや楽しさを出そう」という気持ちがありますね。
【質問7】自分をご機嫌に保つための工夫は?
【回答】嫌なことには、笑える「小さな呪い」をかけてしまう
自分が傷つくような嫌なことはしない、嫌な気持ちになってしまう相手とはできるだけ会わない。それが私のルールです。それでも嫌な出来事に遭遇してしまったら、相手に「小さな呪い」をかけるようにしています。
先日、電車に乗っていたら男性の荷物の角が思い切り脚に当たりました。男性は急いで電車を降りてしまったので、痛いし悲しいけど誰にも分かってもらえない。「ゴミ捨て場に持っていくゴミを、間違えて会社まで持っていきますように」とこっそり小さな呪いをかけました(笑)。本気で妬んだり恨んだりすると自分のことが嫌になってしまうので、想像して少し笑えるような呪いにするのがコツなんです。
どうしても「自分と合わない相手」もいます。お誘いいただいたら「笑顔で後ずさり」をしてさり気なく誘いを断り、なるべく逃げます。大人同士なら、そこで「今は会うタイミングじゃないのかも」「忙しいのかも」と気付きますよね。それでも誘われ続けたら、あまり反応しないようにします。本当のことを言って傷つけたくはないし、嘘をついて相手を安心させるのもよくないと思うから。こういうことは、時間しか解決方法がないと思っています。
本当は会いたくないと思っている相手との予定を入れていたら、新しい人と出会う時間も、心の余裕もなくなってしまいます。私自身がそうなのですが、人ってどんどん新しい人に出会えるんですよ。今の人間関係がすべてではないことは、絶対に知っておいたほうがいいと思います。