【質問2】「わたしを変えた」人物は?

【回答】ブックデザイナーの鈴木成一さんと夫です

 雑誌「イラストレーション」に、「ザ・チョイス」というイラストレーターの登竜門のようなコンテストがあります。そこで受賞したときの審査員が、ブックデザイナーの鈴木成一さんでした。「初めて目を開いて、初めて世界を見せられたような…世界はこんなにも光に満ちて、こんなにも明るい…」というすてきなコメントをくださり、すごく自信になりました。そこで自分の道筋ができた気がします。入選したのが、同潤会アパートのギャラリー「ROCKET」での個展と同時期で、それから仕事が入り始めました。

「ずっと自分に自信がなかった」という松尾さん。ブックデザイナー・鈴木成一さんのコメントが自信につながりました。
「ずっと自分に自信がなかった」という松尾さん。ブックデザイナー・鈴木成一さんのコメントが自信につながりました。

 もう一人は、ジャーナリストの佐々木俊尚。現在の私の夫です。昔の私は、自分の「できないこと」を数えるようなタイプでした。しかし、夫と付き合っているときに「君はあんなに素晴らしい絵が描けるならそれだけでいいじゃない。他の人にできることは他の人に任せればいいんだから」と言われたんです。その言葉で、人ができることを私が今から頑張ってもそのレベルまで行くのは大変だから、得意なことを伸ばしたほうが自分らしい自分になれると知ったんです。

 当時は気付かなかったけれど、考えてみるとその頃から私自身が変わってきたと思います。待ち合わせのときに、いつも私は暗い顔をして下を向いていたらしいんです。自信がなかったので、人と目を合わせないために下を向いていたのですが、夫からは「顔を上げたほうがいいよ」とか「笑ったほうがいいよ」と、よく言われていましたね。

【質問3】印象的だった仕事での失敗談は?

【回答】雑誌に絵が反転して掲載されたことがあります

 イラストレーターになって最初の頃は、経験値が少なく、マネージャーもいなかったので、トラブルになりそうな仕事を回避できませんでした。絵を返却してもらえないなど、絵を描くこと以外でのストレスが多かったです。一番ショックだったのは、絵が反転した状態で掲載されたとき。きちんと確認する工程がなかったので、雑誌を見て驚きました。

 イラストレーターを始めて2年ほどたった頃に、マネージャーをさせてくれないかと声をかけてくれた方がいて、すぐにお願いしました。当時も今も、新人のイラストレーターでマネージャーを付けている人はあまりいなかったのですが、マネージャーを通してでも依頼したい、と言ってもらえる仕事のほうが、結果的に充実したものになっています。