「掃きだめ」の仕事がミステリーハンター抜てきにつながる

「誰も聞いていないような時間のラジオ番組や、見向きもされない番宣の仕事を一生懸命やった時代もありました」
「誰も聞いていないような時間のラジオ番組や、見向きもされない番宣の仕事を一生懸命やった時代もありました」

 私が入社した90年代は女子アナブームの最盛期で、とにかくタレント・アイドル路線で売れることが女性アナウンサーの王道でした。

 しかし私は周囲から求められるかわいい女子的役割をどうしても受け入れることができず、女子アナとしてはかなり日陰の道を歩むことになります。

 その頃、アイドル女子アナたちがもてはやされる現実を前に、「今は白亜紀だ」とよく自分に言い聞かせていました。

 「自分は下草の陰でこそこそと暮らしているねずみのような哺乳類だから、種の違う恐竜のそばに行ったとしても、踏まれてぺちゃんこにされるのがオチ。でも歴史を振り返れば、いつか必ず新たな時代が始まる。だから恐竜が栄えている白亜紀の終わりをひっそりと待とう」と、哺乳類は心に誓ったのです。

 そうして新時代に適応できるよう、中継の技術を磨いたり、誰も聞いていないような時間のラジオ番組をやったり、見向きもされない番宣の仕事を一生懸命やりました。

 よくありますよね、5分とか10分の、番組宣伝のためのミニ番組。当時はそういう仕事は、暇なアナウンサーと崖っぷちディレクターがやる「掃きだめ」みたいな扱いをされていまして(笑)。でもディレクターが頼りなかったおかげで、一緒にアイデアを出しながらVTRを作る作業ができたんです。

 これがゴールデンを担当しているような売れっ子ディレクターだったらそうはいきません。かつて私も気鋭のディレクターに「ここはこんなふうにしたらどうでしょう」と提案したら、「お前の頭の中なんか誰も興味ねーんだよ!」と言われたことがあります。彼らにとっての女子アナとは、「現場ではニコニコして俺の言うことを聞き、その後一緒に飲みに行ってくれればいい」存在だったんでしょうねえ。けっ。

 で、その親愛なる崖っぷちディレクターと一緒にアイデアを出し合って作った「世界ふしぎ発見!」の番宣が好評で、ミステリーハンターをやることに。顔を汚して探検隊の格好をし、ほふく前進でメーク室にいる野々村真さんに接近して足元からインタビューするという番宣だったんですが、その過剰な演出の何かが、番組スタッフの心をつかんだようです。

 さらには、月曜の明け方4時の放送でほぼ誰も聴いていないと思われるラジオ番組で、どうせ誰も聴いていないなら好き勝手やろうとベラベラしゃべっていたら、プロデューサーが評価してくれて、後に私が大きな賞を頂くことになる生放送の帯番組のMCに起用してくれました。

 こうして話すと「行き倒れの旅人に親切にしたら、実はその人は立派な偉い人でした」的な民話のようによくできたストーリーですが、まあ実際、こんなこともあるんです。仕事に適性がないとか、居心地が悪いと思ったときには、自分が白亜紀における哺乳類だと思って取りあえず目の前の仕事を一生懸命やってみてください。その努力はフェーズが変わった時、必ず役に立ちます。だからどんな状況でも、決して腐らずにいてくださいね。

妄想が夢への推進力になるよ

 そうそう、踏ん張るときには妄想力が役に立ちます。私は育休から復帰して仕事がなく、アナウンス部で毎日電話取りをしていた頃、デスクでずっと「いつかここを出ていく日」をイメトレしていました(笑)。

 机の引き出しを開けて中の荷物をまとめ、ダンボールに入れる。そしてロッカーを空にして、「長い間お世話になりました」と深々お辞儀する。そうして顔を上げた時に見える、周りの人たちの顔。裏切り者を見るようなまなざしや羨望の視線を一身に受けながら、フロアをさっそうと後にする――。

 こんなふうに退社の瞬間を思い浮かべるだけでもかなり興奮しますから、ぜひやってみてください(笑)。実現の可能性なんて考慮しなくていいんです。ただ、妄想力を鍛えると、不思議と人生がそちらの方向に導かれる気がします。ビジュアル化することって案外、パワーがあるんですよ。

聞き手・文/小泉なつみ 写真/稲垣純也