一杯1000円のコーヒーをぜいたくだと切り捨てない

 二つ目は、豊かさを積極的に享受すること。

 私は少し前まで、お寿司に数万円を払う人の気持ちがさっぱり理解できず、回転寿司で十分でしょ、と思っていたんです。でもある日、先輩に本当のお寿司屋さんに連れて行ってもらって、衝撃を受けました。味の違いはもちろんのこと、そこにはこれまで自分が見ていたお寿司の世界とは全く違うサービス空間があったんです。

 言い換えるなら、そのとき「本物を知った」という感じでした。回転寿司には回転寿司の良さがありますが、そのときちょっと頑張って、たまにはいいお寿司食べたいなーと思いました。それって、仕事を前向きに頑張る理由になるな、と。

 もちろん毎日高級なものを食べることはできませんが、例えば月に1回だけ、ホテルのラウンジでコーヒーを一杯注文することは、そんなに高いハードルではないはず。一杯1000円のコーヒーはチェーン店のそれに比べれば高価かもしれません。でも、受けられるサービスやラウンジにいる人たちの会話など、いつもの喫茶店では体験できないものがそこには必ずあるはずです。

 ちょっとだけ背伸びすること――。それをぜいたくと切り捨ててしまっては、逆に人生が貧しくなってしまうと思います。経験のために使ったお金は人生を必ず豊かにしてくれます。それを実感する人が増えれば、みんなが気持ちよくお金を使える社会になるのではないでしょうか。

聞き手・文/小泉なつみ 写真/小野さやか、PIXTA 取材日:2017年5月30日