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懐かしくて愛おしい気持ちに包まれる2冊

2014年11月6日

姫野カオルコ著『近所の犬』/東直子著『いつか来た町』

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 初めて来たのに、初めての気がしない―そんな場所があります。

 たとえば友だちの家。「寒いからどうぞ」とすすめられ、おずおずとこたつに足を入れ、気づいたらみかんの皮をむき、目の前にあるテレビに見入っている。なんだろう、このリラックスした感じは。そう、これは「実家」に戻ったような懐かしさ。

 現実の我が実家は引越しをして「親の住む家」となり、いわゆる「実家」と呼べるものではないのですが、ちゃんと体はかつての実家を憶えています。

 雑然とした空間だけど、手の届く範囲に必要なものが揃っている。ごはんを食べるのも、お茶を飲むのも同じ場所だった実家。

 初めて来たのに、そんな気がしない、なぜだか懐かしい本を紹介します。

姫野カオルコ著『近所の犬』(幻冬舎)。

 「世の中には「自伝的要素の強い小説」とか「私小説」とかいう分類がある。(中略)前作『昭和の犬』は自伝的要素の強い小説、『近所の犬』は私小説である」エッセイのような私小説である本作は、主人公「私」が愛してやまない近所の犬とのやりとりが描かれています。

 「借景」ならぬ「借飼」(しゃくし・造語です)。家の事情で動物を飼えないため、人が飼っている動物を見て愛でる「私」。

 しかし実際に近所の犬と出会える確率はそれほど高くありません。犬に会いたい「私」は、散歩の連絡をもらったり、散歩の噂を聞きつけたり、あらゆるアンテナを張っています。そしてようやく会う機会がやってくると犬用の衣服に着替え、犬のもとへすっ飛んでいくのです。

 「私」の犬に対する愛情はとても純粋です。しかも相手(この場合は相犬)を束縛せず、まずは見ることに徹す。飼い主の了承をもらってから、体を撫で、そっとジャーキーをやるところなど、神々しくすら思える光景です。

 よその犬は何もしてはくれないし、「私」がよその犬にできることは限られています。ただ時々すれ違って、たまに触れ合う。そんな関係がもたらす感情がこちらに伝わってきました。

 この感情、子どもの頃にたまに会う親戚や近所の人に頭を優しく撫でられた時のものと似ています。

 そして今、10ヶ月の甥っ子を抱っこしながら感じるものとも近いです。いつの間にか眠ってしまった甥っ子を抱きながら、胸に満ちてくる温かな感情。この瞬間の気持ちをこの子は覚えていないだろうけど、わたしはずっと覚えていますよ、と心の中でつぶやいています。

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Profile
中江 有里
中江 有里
1973年大阪生まれ。89年芸能界デビュー。 2002年「納豆ウドン」で第23回BKラジオドラマ脚本懸賞最高賞受賞。 NHK-BS「週刊ブックレビュー」で長年、司会を務めた。 近著に「ホンのひととき 終わらない読書」(毎日新聞社)。 現在、NHK「ひるまえほっと」‘中江有里のブックレビュー’に出演、 関西テレビ「スーパーニュースアンカー」、フジテレビ系「とくダネ!」にコメンテーターとして出演中。新聞や雑誌に読書エッセイを連載中。書評も多く手がける
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